2002年3月13日
黒柳「今も文学座の座員でいらっしゃるんですけど昔出てくださったときに”かくの”さんて呼ばれているときが多い」
角野≪そうですね8回ぐらい連呼してくだすったんで≫
*:徹子の部屋に以前角野さんが出演されたとき黒柳さんは”かくの”さんと呼んだ
「この方は”かどの”さんです」
≪大分最近は”かどの”と呼んで頂ける様になりました。≫
「それにしても”渡る世間は鬼ばかりに”出てらして。ラーメン屋の」
≪そうですね足掛け12年になりますので今年は6回目ということで。≫
「あれはえなりかずき君のお父さんで泉ピン子さんが奥さん」
≪そうです≫
「すごいところに挟まってますね(笑)。ですから角野さんて呼ばれるよりも」
≪ラーメン屋のおじさんって呼ばれる方が多いですかね≫
「ラーメン屋さんにいくと難しいんですって」
≪あのねえテレビの役なんですがお店の方が緊張されるんですよ(笑)同業者が来たんじゃないかって。一瞬お店が緊張するのが分かりますねえ≫
「なんか1回舞台から落っこったことがあるんですって?」
≪これはねえ旅公演にはじめて行くときで”キガカイキョウ”っていうお芝居でタイチキワコが主役であのこれは舞台稽古を東京でやって地方に出て行くんですが三鷹の公会堂で稽古をやってたんです。で旅に出て着いたところが福井県の小浜というところで初日ですから舞台監督が最初のポジションを決めるということで楽屋は明るいんですよね、最初が”恐山のいたこのくちよせ”でみんな汚いかっこで集まっているんですがハッとしたら客席に落ちてたんです≫
「お客様が入ってないところで」
≪開演前ですから。そんなに大したこと無いんですよ1mちょっとですから。そん時は激痛とかそういうのは無かったんですがまずいことしたなあと思って捻挫かなんかしたかなと思って≫
「大変なのは7役やってた」
*:角野卓三さんは七つの役を演じることになっていた
≪その時はやったんですよ≫
「初日は七役やった」
≪ええ。初日は気も張ってるしやったんですよ。で終わったら私たちが裏方さんと一緒に後片付けもするんですが「お前はやんなくてもいいから早く寝ろ」と言われて缶ビールのんで寝たんですが夜中にねえ痛くてねえ2度も3度も起きるんですよ≫
「あら」
≪翌日福井へ移動して先輩も付いて来てくれて医者にいったんですよ。そしたら足に分度器を当てるんですよ。そして足を曲げてくださいと言われて痛いところまで曲げるんですよ。その曲げられる角度を見て「これは君じん帯が切れてる」と。≫
「分度器で測るんですね」
≪ええ、ビックリしましたけどねえ。先生が看護婦さんに「石膏(せっこう)を練ってくれ」って言うんですよでも「すみません。僕これから芝居があるんですよ」って言ったんですよ。先生が「(石膏で)足を伸ばしてひざが曲がらないようにしないと大変だよ」と言われてでも聞いたらギブスをしたらやってもいいよと言われて分かりましたと。帰ってすぐに衣装さんにズボンの幅を広げてもらって7役のところを5役にしてもらって≫
*:角野さんはひざが曲がらないように足をギブスで固めた
黒柳「足はつっぱたままで」
角野≪どの役も5役とも足がつっぱたままで(笑)≫
「それすごいですよね出てくる人足が突っ張ってて」
≪衣装は違うんですけど足はみんなつっぱてる(会場笑)。それで残りの2役は演出家がキムラコウイチさんがやってもらって≫
「キムラコウイチさんがやったの」
≪ええ≫
「最初は足がつっぱてる人が出てきてもそういう設定なのかなと思っても出てくる日と出てくる人みんな足がつっぱてちゃねえ(笑)」
≪それでしょうがないので一度東京に帰りましてね家に劇団の近くに慶応病院があるんですがそこで調べてもらったんですがそこも分度器でしたね(笑)≫
「そこも分度器で」
≪それでまたギブスしてそれから東北・北海道に40日間公演に行かなければいけないんですよでもすぐに代わりがいないもしあれだったらギブスでも行ってくれないかと(黒柳笑)やっぱり責任感もあるし使命感もあるんで行きますとそれで行きました。先生がおっしゃるには動いた方が良いと座っているよりは。それで出来るんならやりなさいと。でももう1月もしないうちに戻りましたね。結局伸ばしておけば繋がるわけですから≫
「でもはずみって恐いですね」
≪やっぱり舞台ってのははじまる前に30分くらい体操して。舞台ってのはこわいですね≫
「そういうこともあるんですけどデパ地下が好き」
*:デパートの地下食料品売り場
≪あの家で酒を飲むときは自分でつまみを買ってこようかなと。自分で料理する時間もないしお惣菜とか出来たものを半完成品みたいなものを買ってくるんですがおばさんたちとは顔なじみですよ「今日はなあに~」とか≫
黒柳「夕方になると安くなるとかはそうですか?」
角野≪そうですねある時間をすぎると。奥様たちはよくご存知だとは思いますが別に狙っていくわけではないんですが楽しいですよ≫
「あれ私はしたことあまり無いんですけど試食も出来るじゃない」≪ええ≫
「私たまに試食すんのお漬物とかねえ、おいしいかなって。奥様も女優さんでいらっしゃって文学座の女優さんで倉野章子さんていうきれいな女優さんなんですけど一緒の旅なんてことは無いんですか?」
≪結婚前はありましたけど先輩なんですよ4期の。で北海道なんか行ったときにバスで唱歌を歌ってるのがいて今の家内なんですけどなんて奴だと思いました(笑)大人になって遠足じゃないんだからどうして唱歌を歌うかなって(笑)≫
「そういう気分になったのかもしれないですね」≪そうですね≫
「でもあれですよね実は亭主関白てほんとうですか?」
≪いやあひどいですね≫
「頑固で凶暴」
≪僕は家に帰ると凶暴な亭主だと思いますね(笑)≫
「「風呂!!」とか言うの?」
≪いえそういうのは自分で入れますけど(笑)。片付けがちゃんと出来て物食べたりするときの段取りが出来てなかったりするとそれが一番多いかもしれませんね。座ったときになんか1つ出しとけと、それが終わってから次にかかればいいだろうと≫
「終わったら片付けて次のものに」
≪空いた皿がごろごろあるのは好きじゃないですね。うるさいおやじですね≫
「自分で片付けたりしようとは思わない」
≪立ったり座ったりしたくはないでしょ。座る前はいいんですよ自分で出したり片付けたりしますけど1回座ったら立ったり座ったりするのはいやですね≫
「デパ地下いくエネルギーがあったらそういうものを片付けることはなんでもないと思いますけどねえ」
≪気分ですからねえ≫
「奥様はお飲みになるの?」≪少しは。≫
「亭主関白なんですって」≪全然そう見ていただけないんでありがたいですけど≫
「本当にね。家に帰ってもねえ気弱なねそういうイメージがありますけど」
≪役と人格は違うと思いますよ≫
「役は気弱そうなね」
≪どっちかというと被害者タイプですから≫
「ずいぶん三谷幸喜さんとか井上ひさしさんとかああいうコメディーのものに出てますよね」
≪まあどちらかというと悲劇よりは喜劇の方が多いですし自分もとっても好きなので笑っていただける快感というのが好きですし≫「まあそうですよね」
黒柳「角野卓三さんは東京の生まれなんだけどお育ちは大阪」
角野≪変な話ですが慶応病院で生まれたんです。劇団のすぐそばなんですだから劇団に入ったときに「あれ!!」って。別に体内回帰とかじゃないんだけど。どうも兄貴がいたらしいんですけど生まれて1月ぐらいで死んじゃったそうで母方の方が東京の千駄ヶ谷の医者だったもんでお産婆さんじゃなくて用心して病院で産めということで僕達の世代はあまり病院で生まれた人は少ないんじゃないかと≫
「お産婆さんがねえ」
≪それで幼稚園の2年間と小学校の6年間は大阪で、ですからねえどっちでもないんですよ東京生まれだけど東京人ではない、大阪の人のことよく分かるんだけど大阪人じゃないという≫
「すごい不思議なんですけど大阪弁すごくお上手なんだけど大阪の人の役って来たことがない?」
≪1つだけNHKの「心はいつもラムネ色」っていうのがあるんですけど最近はほとんどありません。≫
「じゃあ関西の役がきても全然平気」
≪そうですねきませんけど(笑)≫
「そうなんですってねえご存知ない方が多いのかも」
≪でも最近大阪行って話をすると「それ大分ちがうんとちゃう」みたいなね。でもねえ小学生の頃は毎休みごと春・夏・冬休みには東京の祖母の家に来てましたからその東京の子と遊ぶじゃないですかそうすると東京弁になっちゃうんですね≫
「すぐにね」
≪で大阪に帰ってしゃべると「お前何ええかっこしてんねん」っていじめられるというか(笑)≫
黒柳「坂東英二さんの(大阪)番組でねえいわしを煮てね「いわしでんがな」って言ったんですよ。そしたら「いわしでんがな」というお料理ですか?といわれてそうじゃありません「○○でんがな」って(明石家)さんまさんは言うじゃないですかって言ったらそんなん言いませんって」
角野≪そうですね大阪でも住んでらっしゃるところによって違うと思うんですけど「○○でんがな」は古い言い方だと思います≫
「ところであれなんですよね学習院大学」
≪高等科から入りましたね≫
「仲本工事さんとか小倉久寛さんとかいらっしゃるんですけど経済学部を4年で卒業した」
≪あの文学部行こうかなって漠然と思ってたんですけど親父が止めろと潰しが効かないといわれて父親の言うことを聞いて経済学部に入ったんですが経済学部に行ってなかったら4年で出られなかたっと思いますね。文学部は席取る授業がありますしなにより卒論がありますからね。僕は4年になるときに文学座の養成所に入ったんですけど最後の4年目は授業はほとんど出てないですよね皆無ですね試験を受けて受かれば卒業させていただきましたから≫
「だから誰の家に泊まるかということが問題だったんですってねえ」
≪試験の1週間前は大体休講なんですよ最後の授業に入って教授のお顔を拝見して資料を手配してこの試験は誰の家に泊まって勉強するっていう(笑)≫
「でもすごいですよね留年なくご卒業なさったというんですから」
≪学校にも行ってたんですよ360日ぐらい。休んだのはお正月ぐらいで。演劇部に行ってクラスにはいってないというだけで学校には行ってました。小道具作ったり稽古したり≫「熱心だったんですね」
「じゃあ学校も出て文学座にも残って」
≪うまく残れたというかそこは運がよかったなあって≫
「文学座にもお入りになって25歳ぐらいのときにちょっと生意気になった」
≪そうですねこれは抜擢みたいなんだけど”花咲くチェリー”という芝居があって北村和夫さんの息子の役でそれまで2本ぐらい熱海殺人事件ていうのが内の劇団初演だったんですけどいい気になってたというのがあると思うんですけどその息子役で≫
「石立鉄男さんが」
≪石立さんが初演、再演とやって僕が三回目だったんですけど北村さんに怒られて怒られて≫
「ええ!!北村さんが怒った。どういうわけで?」
≪一挙手一投足怒られて「違う・・ああだめだ・・それはフランキー堺のNGだ」とか言われてフランキーさんに申し訳ないんだけど(黒柳笑)≫
「フランキーさんがどうしたって」
≪フランキーさんに似てるって≫
「演出はながおかてるこさんがしてるのに」
≪ながおかさんが演出してるのに自分の芝居だと思いになってたみたいで半分ノイローゼになったみたいで絶対止めてやろうと思いましたけどこんな劇団。それが幕が開いたら言われたとおりのことが自分で思い当たるんですよ。自分が思ってることとやってることはそんなに一致してないんだなと。鉄は熱いうちに打てといいますけど若いうちに怒られて良かったなあと。最大の恩人ですね≫
「北村和夫さんが。でもそれまで俳優になることを反対してたお父さんがその芝居を見て」
≪楽屋に来たときにね目が赤かったんですよこれでOKだと思いましたね≫
「ああそうお父様はお亡くなりになったんですってねえ」
≪7年前に≫
「面白いお父様でその話はまた今度」