2002年5月2日
黒柳「絵本作家のきむらゆういちさんです。よくいらして下さいました。”あらしのよるに”というほんが大変ベストセラーになっていまして絵本なんですけども。今日のゲストのかたはその絵本の文章をお書きになった方で絵の方はあべ弘士(ひろし)さんという方が」
きむら≪ええ。≫
「北海道旭川の動物園の」
≪飼育係をやっていた人でいまは辞めて絵のほうに専業しています≫
「なんといっても”あらしのよるに”は芝居にもなって劇団”円”で」
≪はい≫
「それに第一冊目が出たのが94年ですから」
≪8年ぐらい前ですね≫
「はじめはこの1冊のつもりだったんですって?」
≪どうなるかわからないという感じで1冊目が終る方がいいかなって1冊で終るつもりだったんですがその後いろんな方からその後どうなるんだってお便りがきまして書こうかなと思った前にいろいろ賞とかをいただいちゃったんですね≫
「そうなんですね講談社出版文化賞、日本図書館協会の選定図書とかに選らばれまして6冊まで6巻までかかれてこれで完結と」
≪そうですね≫
「全部書くのに7,8年かかってるというふうになりますかね」
≪そうですね≫
「後がどうなるその先どうなるという。つまりオオカミとヤギが嵐の夜に暗闇で会ってしまったというお話なんですね」
≪はい≫
「有名な方が推薦文を書いてるんですけども第六巻に脚本家の内舘牧子さんがこのように”一遍のどぎつさも無いのに息を呑むサスペンスで読み始めたら大人でも止まらなくなります。子供に読み聞かせたらきっと生きる楽しさや重さが静かに胸に入っていくでしょう”。それから宮本亜門さん。宮本さんはちょうどNYの同時テロのときにNYにいらしたということで”ぼくはあの9月11日NYにいた。翌日町中を包んだ世界貿易センタービルの灰は痛く切なく僕たちに降り注いだ。その灰は心にしみ胸を圧迫した。なぜ人は分かりあえないのか。しかしそれが人間がやった事実の行為だった。そんな時にこのヤギのメイとオオカミのガブにあった。うつくしいエンディング。これは一瞬の奇跡。本の中だけの夢?それでもいい。もっとも必要な心を教えてくれたから。人生において愛すべきお話がまた生まれた。世界中の人たちに読んでもらえたらと心から願うばかりだ。メイとガブは僕にとって国であり民族であり宗教であり恋愛であり本来この地球上に生を受けたあらゆるもののすがたである”とこんな風に激賛して」
≪ええ、うれしかったです。≫
「じゃあせっかくなんで飛ばしてですがちょっと絵本を読んでみます。
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(黒柳さんの読まれた絵本の内容を要約したものを以下に書きました)
ヤギの肉が大好物のオオカミと草好きのヤギが嵐の夜に小屋で出会う。
暗闇なのでお互いの存在がわからない
ヤギはオオカミのことをヤギと思い
オオカミはヤギのことをオオカミだと思っている。
すっかり友達になった2匹は明日この小屋の前で会う約束をする。
その時にお互いが分かるように合言葉を決めて別れる
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そして次の日にこの2匹が小屋の前で会うとどうなるのかというのが一回目の終わりだったんですけども。」
≪ぼくそれで気付いたんですけどもハラハラドキドキするものって敵がいるんですね。でもこれは敵がいなくてドキドキするっていう。おもしろい今までとは全然違ったものだなって≫
「お互いが分からないからどうするんだろうって私たちがドキドキするって」
≪それと立場が違うということでいろんな意味でドキドキするっていう。≫
「それと中ではオオカミはヤギの肉はうまいなって頭で思ってヤギは草はおいしいなってお互いが話し合ってるんだけども言葉に出して(草とかヤギとか言わない。おいしいとしか言わない)言わないからヤギはオオカミを恐れていないという。どんどん巻が進むと明るいところで会っちゃったりするんですよね」
≪2巻目のキャッチフレーズがあって”友達だけどごちそうで仲良しだけどおいしそう”っていう苦しむ。葛藤する≫
「ロミオとジュリエットじゃないけど(笑)。それで心を許してヤギがお昼寝なんかをするとオオカミがガブッと行こうとするんだけどもいやいや友達だからやめとこうと。この辺を子供たちはすごく読み込んでいて食べちゃえばいいのになんて言ってる子はいなくて。子供たちが感想とかこの後自分だったらこういう風にするとかを送ってくれたりして。実に子供たちがよく読んでるなってびっくりしますね。」
≪普通感想文が来るんですけどもこの本は続きを書いてくるんです≫
「感想文よりも自分たちが続きが書けるというのが面白いのかもしれませんねえ。学校なんかでもずいぶん読んで聞かせているところもあるそうですけども」
≪小学4年生の国語の教科書に乗って1年から6年まで全校生徒が読んで続きを書いてからその後で作者の書いた続きを読んでみようという授業がありまして。全国から続きがきてそれが結構面白くて≫
「いい状況ですね。でもこれは単純な話でもあるからですよね」
≪うん。それを聞いてから僕は続きを書いたら楽かなと思うぐらい(黒柳笑)≫
※全国から”あらしのよるに”の続編を読んだ子供たちが自分たちで続きを書いてきむらさんの元に送る
黒柳「その中で1巻目が終った時にきむらさんの所に送られてきたのを読んでもらっていいですか」
※子供たちが考えて書いた(作った)絵本の続きをきむらさんが読む
きむら≪”そしてヤギとオオカミは小屋の前であいました。ヤギは恐くて恐くてでもあの人との約束を守るためにと。ところがいきなりオオカミが襲い掛かってきました。「け・け・結婚してくれ」とオオカミは言いました。「はい」といってしまいました。そしてヤギはオオカミに連れられバクバク谷に住むことになりました。ヤギは100匹もの子供を生むことになりました。半分はヤギで半分はオオカミです。ここにいるとオオカミに食べられてしまうので別のところに住むことにしました。そしてヤギとオオカミは末永く暮らすことになりました”と≫
「食べられちゃうから別々に住むと」
≪ええ他にもいろいろなものがあって雨が降ってたんで止んでから行こうと思ったんですねヤギは。で遅れていったらオオカミだと気付いたんですね。でもオオカミは病気になってて(さらにオオカミは)目も見えなくなってた。オオカミだから帰ろうと思ったんだけどずっと待っててくれたオオカミをほっておけなくて目も見えないんで一生だまして暮らしましたとか。≫
「すごいですね」
≪それは小学校2年生ので。≫
「とにかくみんなこの友情を成立させようとしてるんですものね。別れちゃえばいいっていうのはなかったですものね。今の子供たちって優しさがないとかいうんだけども大丈夫だなって思うところが随分ありましたね」
≪名古屋の大学の先生が小学生から社会人までの500人に絵本を読ませて続きを書かせてそのデーターを取って論文を書いている人がいたんですね。結末が年齢が上がっていくに連れて悲劇が多くなっていくそうです≫
「世の中がわかると段々悲劇が多くなってくる」
≪いろんなものが出てきて面白い本だなと≫
「お書きになってる本人が面白いとおっしゃってるんで。絵本作家でもあるんですが玉美の卒業?」
≪はい。≫
「子供のための造形教室とかもやってらしていつか大人も子供も読めるものを書きたいと思ってたそうなんでこれは8歳から80歳まで読んでるっていうデータが出てるそうなんですけども。これのヒントは小さいお嬢さんがまだ赤ちゃんだった時に?女性誌をみて」
≪それは前の本のときですね。それは”赤ちゃんの遊び絵本”というのがありましてそれは良く売れて大ベストセラーになったんですけども。僕は本というのは文字を読むもんだと思っていて赤ちゃん向けの本というのはどういうものかなあと思ってたんですけども(きむらさんの)子供が生まれてみたらちゃんと子供も本を読む≫
「どんな風に読んでたんですか?」
≪読み聞かせをしてあげたら好きな本も好きなページもあって≫
「食べ物の写真があったらそれを食べる真似なんかをしてるんですって?」
≪食べる真似したり。ふと見ると座り込んで婦人雑誌を読んでるんですね赤ちゃんが。そこに載ってる赤ちゃんの顔写真を見てただけなんですけどもすごいなって平面をちゃんと理解するんだなと≫
黒柳「なるほどね平面を理解するっていうのは人間の持っている素晴らしさかもしれませんねえ。さっきの”あらしのよるに”に戻りますけども考えてみたら(ヤギやオオカミは)男とか女とかなくてヤギのしゃべり方が女ぽかったりするんだけども別に男とか女とかは書いてなくて」
きむら≪じつは意図的にそうしているんです。ある読み聞かせの人たちのグループがあって集まってその話になったらヤギを男と思っている人と女と思っている人が半分ぐらいいました。≫
「私は男っぽく読んだんですけども名前はメイっていうんですからどっちとも取れるんだと思うんですけども」
≪本当はヤギは男なんです。もちろん大人の人が読めば恋愛とも取れるように書いてるんですけども男女にするとただの男女の話で終ってしまうんですね。男女にしない方が先ほどの宮本亜門さんの文章にあったとおりお互いの国の違いであったり階級の違いであったりいろんな風にも取れると思ったんでむしろそういう風にはしなかったんですね。≫
「私も男と思って男同士というか人間同士の友情がいいなって思ってね合言葉っていうのが私結構好きなんですけども。民族同士の争いはここのところアフガニスタンをはじめいろんなところであるのでみなさんおわかりだと思うんですけどもそういうことから考えればみんなが合言葉を作って一人一人が友情を持てばねえ」
≪姿とか形とかいろんな余計なものを取り去れば友達になれるかもしれないというところから始まってるんですけどもねえ≫
黒柳「高校生の時に同人誌を作ってらして」
きむら≪最近見てずっと忘れてたんですけども蜘蛛と蝿の話を書いてたんですね。蜘蛛が巣にかかった蝿を食べようとした時にたまたま蝿と話をしちゃってだんだん食べれなくなってという話が高校のときの同人誌にあったんですね。もしかしたら僕がやりたかったことがこの本を書くまでにはいろいろな仕事をしてきたんですけどもやっとそこに辿り着いたのかなって≫
「いつか大人も子供も読めるものが書きたいと思ってらしたものがこの”あらしのよる”」
≪そうですね。やっと到達して入り口にきたかなって≫
「白百合女子大の文学部の児童文化学課というのがあっていまでもそこで教えてらっしゃる?」
≪そうですね≫
「先生もしてらっしゃる。どうしましょうねこれ6巻で終っちゃたんですけど」
≪ええ、オオカミは永遠のテーマなんでオオカミの話は書き続けていきたいと思ってます≫
「オオカミの話は。みなさんありがとうございました」