本日の徹子の部屋ゲストはすまけいさん

2002年5月20日

黒柳「こうしてお会いできて本当にようございました。奇跡のカムバックと言われえてるんですけどもご自分では悪運が強いって言うかみんながそうおっしゃるの?」

すまけい≪自分では言いませんが他人は力を入れて「悪運が強い」といいます≫

「前に出ていただいたときはいろいろなお話をしていただいて昔は”アングラ”の帝王と言われていたんですけども食べていかれなくて13年間も印刷所に勤めていてNHKの台本や何かを刷ったりしてたんですけども俳優にお戻りになってテレビ・舞台に大活躍だったんですがいきなり来たのが膀胱ガン」

≪はい。≫

「みなさんびっくりしたでしょ。”葵三代(NHKの大河ドラマ)”にこの方出てらっしゃいましたよね。あの時もうすでに膀胱ガンになってらした」

≪そうです。なって1年半ぐらい経ってました≫

「いろいろな措置とかをやってらして。」

≪ごまかしながらやってました≫

「ずいぶん辛かったでしょうね」

≪そうですねごまかすのにね。スタッフの方にずいぶんご迷惑をかけました。≫

「治療も大変ですけども”ガン”というのがねえ」

≪”キャンサー(ガンのこと)”という響きだけで(頭に)ジーンときますからね。なんというか参りましたね≫

「ガンは井上ひさしさんの舞台に出る稽古の時にわかったそうで」

≪宮沢賢治主役の村野武則さんが主役で私はその親父の役でしたけどもその稽古の最中に血尿がでましてね私は軽く見てたんですけどもちゃんとした機械があるとこで見ていただいたほうがいいということで東京医大で見ていただいたら簡単なものじゃないよと。膀胱壁に花崗岩的な腫れがあると≫

「要するに噴火的な。そのときには(医者は)ガンとはおっしゃらなかったんですか?」

≪悪性腫瘍と言いますけどもルビを振ったらガンですよねって(医者に)言ったら「はい、そうです」と。こっち(すまけいさん)もニコニコとして決意に満ちた顔をしていましたけども(心の中では)ジーンとしびれていましたね。お仕事も決まってましたが結局下りました。手術もあったので≫

「お仕事も前は13年間(芝居だけでは食べていけなくて印刷所に勤務してたので)止めてらっしゃたんですけども今はやる気になってらしゃるんですからね」

≪そうなんですよ(笑)。≫

「それで小松座も佐藤慶さんに変わってもらいになって”葵三代”の伊達政宗も無事終って。でも突然去年」

≪(平成)13年の7月でしたかなんか選挙があった日で参議院選挙か≫

「選挙に行こうと」

≪いい天気の日で上さんが洗濯をしてぼくが干していたらグラッときて。後はなんだか訳のわかんなくなりました。上さんは大騒ぎしてましたよ救急だのなんだのって、僕は「恥ずかしいよ。大騒ぎするな」って。軽いめまいとかはありますでしょ。「あしたかかり付けのお医者さんに行ったらいいよ」って言ってるうちに体が段々しびれてきて≫

「足がもつれたんですって」

≪お手洗いに行こうとするとグラグラになっちゃう。私は結果的に左半身不随になりましたけども。今は左手も動きますけども≫

「それでも(病院に)行くまいとしてテレビを見ようとしてリモコンを押そうとしたら」

≪使えなくなってんですよ。朝方は押せてたんですけども押せなくなって≫

「朝方選挙に行こうとしてたこれから政治を良くしなきゃって思ってたんですけども」

≪そうそうそう。そういうことを考えてたから罰が当たったんですかね(笑)≫

「いやいやいやそんなことはないですよ。でもさっきまで使えていたリモコンが使えなくなって奥様が救急車をお呼びになって」

≪結果的にそれが1番いい手てだと分かって来ましたからね。さすがに。自分がまさか脳梗塞になりかかってるとは夢にも思わないですからね。≫

「脳梗塞だったんですね。血圧はどうだったんですか?」

≪血圧は普段から高いから降下剤のようなものを飲んでおりました。≫

「お酒は?」

≪多少≫

「タバコは?」

≪これは良くないですな。4,50本吸ってました≫

「で病院にいかれてCTスキャンとか撮るんでしょ。」

≪脳梗塞だったんですよ≫

「脳梗塞と聞かれたときはどうでした?」

≪嘘だろうって。膀胱ガンになってああいうものは(ガンが治ってから)3年経てばそのまま寿命どおり生きていけるというのが普通の病院の考え方じゃないですか。死神のやろうがこの爺は生意気だからまた苦しめてやろうって狙ってバーンってやられたようなものでこれは裏返してみると宝くじに当たったようなものですよ≫

「今うかがってるとガンというものは3年とか5年とか経ってると何事もいいというものでその間に他の病気にならないとは決まったものではないんですよね」

≪そらそうですよ(笑)。でも重ねてそんなにくることはないですよ。死神にそういうことをするのはよっぽど俺の芝居が嫌いなんだなって。死ぬまで絶対に止めねえからなオーイって。≫

「そういうところがこの方の前向きなところだと思うんですけどもそれでずいぶん入院なさったんですよね?」

≪脳梗塞の方では4ヶ月ですね。≫

「脳梗塞で4ヶ月。」

≪最初の緊急で運ばれて2ヶ月。その後リハビリになって転院になって大久保病院と言うところに行って2ヶ月ですから≫

「全然脳梗塞の影響を受けなかったのは」

≪そうなんです。そこがみんなに不幸中の幸いというか悪運がつよいなって言われる≫

「すぱっと半分になるんですよね?(右半身は動くが左半身は動かない)」

≪女の人は右が動かなくなる人が多いそうですね≫

「女の人は右半身が動かなくなる人が多い。右脳左脳の違いで。」

≪そうです。≫

「(すまけいさんは)普通の男の人がなるようになったんですか(男性がよくなる左半身不随になった)。これだけ個性的と言われてもねえみんなと同じようになるのはおかしいですよね」

≪めんぼくない(笑)≫

「ちょっと女の人と同じだって言いたかったのにね」

≪そうなんですけどね≫

「でもその時にとっても反省なすったんですってねえ?自分は生意気だったって」

≪それからマイナーマイナーであるというポーズを取りすぎでした。芝居は葉っぱものでやりたくもないのについでにやってるっていうことを言い立ててましたしシンショウ師匠のまねをして下手な芝居は嫌いだって下手がうつるからだと言っておりました。ぱくってきて。とても生意気でした。とってもいろんな人に世話になってきて普段から芝居をやってる時でもスタッフの方でも相手役の方でもとってもすごく良く分かる機会を作ってくれたんですかね≫

「今まではそんなことは考えてもいなかった」

≪まあ極端ではありますけども考えてもいないくらい傲慢でしたね≫

「すまけいさんはとっても個性的な方でお上手な方だったんで口に出してたかは知りませんでしたけどもご自分ではとても傲慢だったと。思って以上に親切にしてくださったんですって。そうだ今回の脳梗塞の時も奥様が電話してすぐに救急の方が来てくださったのも前の膀胱ガンのときの看護婦さんと親しかったからなんですって?」

≪(その看護婦さんが)「なにしてんのよ!!それは絶対梗塞よ。すぐに連れてきなさい」って。そこの東京医大が連絡取れてるからすぐに運んできなさいって運ばれたんです。≫

「そういうことも前の看護婦さんと知り合いになってたから」

≪そうなんですよ。≫

「そういう風に人々のお世話になることがあるのだと」

≪(笑)。≫

「今までは好きなように生きてきたのに。それはそうですよねいくらお金が入んなくてもアングラの帝王と言われてやりたい放題の芝居をやってらして。でもそれでは生活していけないから印刷所に勤めてたんですけどもそれでも(脳梗塞になっても)しゃべれたっていう事が本当に良かったですよね」

≪本当にそうですよね≫

「しゃべるののリハビリは大変ですよね。前と変わってないですよね、すまけいさんのしゃべり方は?」

≪ええ変わってないつもりなんですけども多少は変わってるかもしれないですよね≫

「しゃべるののリハビリをやってらしたんですか?」

≪今はやってないですけども(リハビリメニューの中に)あるんですよね。≫

「そうなんですか。そっち(しゃべれなくなる)の方になってなくても」

≪はい。同じ音の繰り返しがつらいなって思ったり、ある単語の場合はちょとゆっくりしゃべったり≫

「名古屋章さんがそういう風になった話はご存知?突然になったんですってあの方は朝ごはんを食べている時に。病院に行って先生がね「じゃあ、あなたなんでもないって言うんなら」、やっぱり(名古屋さんは)口が利けたんですって。(先生が)「じゃあ動物の名前を言ってください」っていったらなにを言ってんだと「あのーーあれだあれだ・・・」って。頭の中には象が浮かんでるんですって。でも「あれ」しかでないんですって。そしたらいきなり(名古屋さんが)「ハイエナ」って言ったんですって。そしたら先生はハイエナをご存じなくてねえ看護婦さんにハイエナっているかねとか聞いたりしてて。「あれですよ。あれ」って。あの方もしばらく病院に入ってらしたそうですけども。でもこうやって(すまけいさんと)お話できるんですから。すまけいさんがねえ病気になってカムバックできなかったら寂しいですもの」

※名古屋さんも脳梗塞にかかり病院へ行く。名古屋さんはしゃべることができたので脳梗塞とは認めようとしない。そこで先生が動物の名前を言いなさいと質問。頭の中には象が浮かぶが「あれ」としか言えない。突然言った言葉が「ハイエナ」。でも先生はハイエナを良く知らなかった。

≪僕自身が寂しくてしょうがないんですよ。≫

「今ねえサングラスかけてらしゃるのはなんか恥ずかしがりやでねえ目がオドオドしちゃうんでどうしようかなっていってらしゃいましたけどねえ。今はずされましたけども」

≪すごく小心者でね目がすぐにきょろきょろしちゃうんですよ。≫

「舞台じゃ小心じゃないのにねえ」

≪あん時は半分やけになってますから(笑)≫

黒柳「すまけいさんは運がよかったのは5ミリ違ってたんですって?」

すまけい≪うまり背骨につながる脳間というんですけどもそこのところの延髄がやられてたらしんですけどもお医者さんに言われたんですけども人によっては5ミリずれてたら言葉もしゃべれないし植物人間みたいになてった可能性がすごく大きいんだよって。それでその後に悪運が強いなってからかわれるわけですけども≫

「5ミリっていったらば1センチの半分ですからね。本当に運が良かった」

≪ひどいところをやられたものだなって思いましたね。アントニオ猪木の延髄蹴りぐらいしか知ったことはないんですけどもそこをやられていたなんて夢にも思わなかったですね≫

「でもそれでタバコはお止めにならなければいけないということで」

≪はい。(病気後は)吸うと吐き気がして途端にコロッとダメになっちゃいました。≫

「吸う気にもならない?」

≪吸う気にもならないんですよ。何でこんなものを吸ってたんだろうって。さきほど4,50本(吸ってたと)申し上げたと思うんですけども4箱5箱吸ってたんですよそれに20をかけるわけですから相当吸ってたんですよ。(※タバコ1箱に20本のタバコが入ってる)。それを吸わなくなってなにも苦しくはないんですよ≫

「それはよかったですね。お酒はどうしました?」

≪お酒はほどほどにという感じで。≫

「さっきも死神にそんなに俺のことをするんなら俺は一生芝居を続けてやるぞって言ってましたがその精神は変わんない?」

≪そうなんですよ。それを友達なんかもわかってくれて今度9月ぐらいにこの間やった「白鳥の歌」みたいなのをやろうよってね。9月にね。4、5日だけですけどもリハビリのつもりでやろうと。≫

「今年の2月28日には新国立劇場におでになってるんですよ。またこの役がずいぶん偶然なんですけども年老いた喜劇俳優の役でおっしゃるセリフがいちいちびしびし堪(こた)えたんですって?」

≪堪えましたよ。老残の喜劇役者の役ですから≫

※老残=老いぼれて生き残ってること

「何かごまかしたり、平気な振りをしてみせたり、おどけてみせたりはできるよ。でも本当は僕の人生は終わりなんだっていうような本心を段々見せたりする役で」

≪役者の限らず年取った人間が誰でも考えることですよ。いちいち身にしみて痛い芝居でしたね≫

「まあチェーホフが書いたものをマイケル・フレインさんが短く脚色してそして組み合わせが上手くいって。でも本当にそういうのをやるのはそれが最初でしたか?仕事としては」

≪えええ≫

「一番最初にみんなと顔をあわせた時はうれしかったでしょ?」

≪本当にうれしかったですね。みんないい人たちですからね。全部おんぶしなきゃできないですからね。足はひきずってますからね。手はだいぶ動くようになったけどもスタッフや同僚のカバーがなければできなかったですね。≫

黒柳「すまけいさんはお子さんはいらっしゃらないんですけども奥様が今回のことも前の膀胱ガンのことも本当に良くやってくださったということが」

すまけい≪まあ変な言い方ですけども感謝してます(笑)。≫

「あんまり今までそういうことはおっしゃったことはないんですか?」

≪ないです。ないです≫

「顔が赤くなってますけども(笑)」

≪それはしょうがないですね全部あの人にかぶさっちゃってますからね。≫

「よかったですよね奥様が側にいてくださって」

≪そうですねおっぽり出されたらどうしようもないところでしたよね。何しろ口を開けば”なんとかー”ってなってくるから「うるせい!この」ってなっちゃうんですね。≫

「「なんでそんなにタバコを吸うの」とか言われるとね」

≪今じゃ私は積極的になりましたからねリハビリテーションをやらなければって。≫

「びっくりしたのは最近病院では脳梗塞で意識不明みたいになったときから(体をリハビリで)動かしてるんですってねえ。もう動けなくなっちゃうから。昔のすまけいさんだったらいいよこんなものっておっしゃるかもしれないけども今は本当によくおやりになるんですってねえ」

≪はい(笑)。それが仕事みたいにやってます≫

「それで来年の旅(公演)も決まっててですね。1月~3月に。寒いとこじゃなければいいのにねえって言ってたら寒いとこなんですってねえ」

≪寒いとこです≫

「太宰治の話を井上ひさしさんがお書きになったやつを。」

≪人間合格という本なんですけども≫

「普通は”人間失格”なんですけども”人間合格”。東北の旅なんですって」

≪そうなんですよ≫

「1月~3月に。でも太宰となるとあっち(東北)ですよね。岩手とか」

≪そうですねあっちじゃなくちゃね≫

「でも今年の9月もそうですけども(仕事が)決まってるとリハビリもしがいがあるでしょう」

≪それは違いますねえ。入院しててもお医者さんから言われましたものね「すまさんは仕事があるからいいよね。目標があるものね」って。これはずいぶん違いますものね≫

黒柳「さっきもおっしゃたけども病気しないと分からないって言うのもおかしいと思うんですけどもご自分が傲慢だったっていう。自分の中にあるものだと思うんですけども。私たちから見るとそんなには思わなかったんだけどもそんな風に思ってらしたって」

すまけい≪その傲慢だった私も今度の芝居のやり方が変わってくるかもしれないですね。≫

「今までのような芝居をやって欲しいと思うじゃありませんか。」

≪表現的に全部コロッと変わるわけじゃなくて底の方で変わるわけだからって自分で期待はしてるんですけどもね≫

「すまけいさんみたいに得体の知れない人をやるのはうまいってよく言われるじゃありませんか。」

≪それはゆわれたことはあります≫

「向田邦子さんのものをお正月にずっとやっていて私もナレーションをずっとやてったんだけども、すまけいさんのとこにはどういう人って書いてないんですよね。得体の知れない人みたいにね。ちゃんとしたいい役でも得体の知れない人。ますまけいさんが作ってくれるだろうってみんな思うんでしょうね」

≪久世さんにはずいぶんいただきました。あ!!久世さんの役を今度のあれ(病気)で降りたんですよね。≫

「”運動会”?」

≪そうです≫

「それも決まってたんですか?」

≪決まってたんです。新橋演舞場でやったやつ≫

「”冬の運動会”。それは残念でしたよね・9月ですからね7月に(病気に)なったんですものね。今本当にあれでしょ・・毎日うれしいでしょ」

≪非常に≫

「ねえ~病気になんないとそれが分からないなんてね。よかったわ帰ってらして。おめでとうございます(拍手)」

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