本日の徹子の部屋ゲストは柳家小三治さん

2002年6月12日

※本日は亡くなられた柳家小さんさんの追悼特集です。小さんさんの回想VTRと小三治(やなぎや こさんじ)さんの話が交互に放送されました。

黒柳「どうもよくいらっしゃいました」

小三治≪どうも≫

「柳家小さんさんはこの番組に奥様と一緒に出てくださったり奥様の追悼も含めて全部で6回出てくださってるんです。その度にいろいろな話をしてくださったんですけども師匠としての小さんさんはどういう方?」

≪うーーん。それが一番困る質問なんですけども・・・裏表の無いというんですか。裏表の無いという点であんなに裏表の無い人は居ませんねえ。誰だって口ではこう言ってるけども腹の中ではこうとか、別に人をおとしめると言うんではないんですけども人は生きてる内はカラクリを使いますよね。それがまるっきり無い。正直そのものっていうか、なんって言うんでしょうかね、策略計略そういうものが無い≫

「謀略」

≪謀略ねえ。本当に剣一筋って言うか話よりも剣のほうが好きだったですから。剣道の方にあるでしょ”心正しからざるものは、剣正しからざる”って色々ありますよね。その通りで。えーー上に何とかがつく正直者。≫

「さっきご自分でもおっしゃってましたよね”芸は人なり”でその人のものが全部出るんだから。」

≪私でも言うんですよ師匠に言われた受け売りじゃないですけども。私の師匠だって結局は先代の小さんから受け継いできた考えなんですけども先代の小さんよりも弟子よりもその教えを守り通してきたって言うのは1人だけじゃないでしょうか≫

「そしてお上さんという方が竹を割ったという方ですが本当にお上さんのことを気に入ってらしたんですよね」

※小さんさんと奥様が2人で徹子の部屋に出演された時の写真が登場

≪ああ本当だ≫

「懐かしいですね」

≪懐かしいねえーこりゃ~(笑)≫

「それでねえかなりの事をおっしゃってもニコニコ笑ってねえ。」

※小さん師匠が奥様にきつい言葉をかける

≪今でいうとああいうお上さんのことを言うと”受け入れてた”って言うんでしょうか。つまり我慢じゃないんだな許してたって言うか≫

「へへへと笑ってらして」

≪それでね今どういう気持ちで笑ったんですかって言っても自分の心を分析したりとか・・・そういう深さと言っちゃ申し訳ないけどもそういうことは一切考えない。感じない。その時の感覚かなあ~。う~ん≫

「正直な」

≪だから人の心の細やかさとか分かんないんじゃないかという時もありますよ。そういうことは語らないですからね。女の人の話なんかはめったにした事は無いんですけども女心を分かってやるにはとか考えたことは無いね。≫

「どういうタイプの女の人が好きですか?とか言ってもね」

≪こういうのが好きっていうだけでね、どうしてといわれてもね好きなものは好きで嫌いなものは嫌いなんだよって。≫

「いきなりお上さんに会って結婚になったからずっと」

≪お上さんのほうが年上でしたからね。お上さんのほうが惚れて引きずり込んだわけですからね。引きずり込まれて面食らってとっても喜んじゃってずっと一緒にいたんですね。そういうお上さんも好きだったしそういう自分(※小さん師匠の事)も好きだったんじゃないのかな≫

※小さん師匠の奥様は師匠よりも先にお亡くなりになった

「(奥さんが黒柳さんに)「この人ったら本当に朝帰りするんだよ」ってしょっちゅうおっしゃってたんですよ。そして師匠この頃どうなんですか朝帰りはどうなんですか?って(奥様が)亡くなった後に聞いたら「張り合いが無くてこのごろ早くお家に帰っちゃってね」って。こんなんだったら生きてるうちに早く帰ってやったらよかったっておっしゃってましたけどね。きっとそういうかただったんでしょうねなんとなく。さあこれからこちらにいらした時のVTRを見ていただきますけども途中で私が「丸い顔でお生まれになったですよね」って言いますけどね別に驚かないでね。続けさまに言ってるんでね」

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1986年5月8日の放送

黒柳「お上さんがお亡くなりになってからこちらの番組でも追悼してからもう8年」

小さん≪そう、8年目ですね≫

「寂しい気持ちは?」

≪そうねえ寂しいと言えば寂しくないといえばうそになるけどね。≫

「あのお上さんの声が聞こえないと言うのがね」

≪そうですね≫

「お上さんは師匠の事をすごいお名前で呼んでらしたのね」

≪”おい”って呼んでました。”モリコウ”って呼んでましたしね。≫

「本名が”モリオ”さんと言うから”コリコウ”」

≪そう≫

「ご気分のいい時が”モリオ”って言う時も」

≪大体が”オイ”ですよ(笑)≫

「普通は逆ですよね。ご主人が奥様を”おい”と言う事が多いですけども奥様が”おい”と。それで師匠は奥様をなんて呼んでらしたの?」

≪やっぱし同じでしょうね名前なんて呼んだ事無いですよ。≫

「”おい””おい”でね。素敵な方で私大好きでしたけども。師匠の頭の丸いのを朝起きてキョウコさんが黙ってタバコを吸いながら師匠が後ろを向いて新聞なんかを読んでらっしゃると後ろから見ながら”あの丸い頭を何回見られるんだろうな~”って思うと人生って大切なのよねっておっしゃったのがとっても心に残っていてね。でもお鍋のふたが生まれたのかってお母さまが思われたのって本当なんですか?」

≪なんかお袋がそう言ってました。真ん丸いのが出てきたんでね驚いたって。≫

「生まれた時からそんなに丸いのでいらしたんですか(笑)?」

≪丸い顔でしたよ。ずーっとね。≫

「本当に丸くていいお顔ですよね。落語家でお話になる時はいいんじゃないですか?」

≪いいですよ百面相っていうのは長い顔はダメなんですよ。まあるい顔は長い顔にもなるしね≫

黒柳「柳家小さん師匠がちょうど2・26事件の時にちょうどその中にいらしたということはみなさんご存知だと思いますし、私もお話を伺ったように思ったんですけどもよく考えたらそのお話を伺ってないと思ってそのお話を。ちょうど師匠が2・26で機関銃を引っ張って歩いてらっしゃる時に失恋して、当時お上さんとは会ってらっしゃらないんですけどもね。お上さんから聞くと私は失恋してワーワー泣いてたって。2・26って知ってるかって聞いたら「そんなこと知るかえ。私はあの時泣いてた」っていうのが印象に強くてですねあまり詳しく聞いてなかったんですけどもまず軍隊にお入りになったところから」

※小さん師匠が2・26事件に1兵士として知らない内に参加してしまった時に後の奥様は失恋をして泣いていて2・26事件どころではなかった

小さん≪軍隊は昭和10年兵でね、私は昭和11年の1月10日に麻布3連隊に入隊したわけですよね。それで重機関銃隊。それで事件が2月26日でしょ。1月ちょっとしか経ってないんです。で井の頭公園に行軍の練習があったんですよ。(練習が)前の日にあったんですよ25日かな。で寝てるとね不寝番が起こして周るんですよ。それで班長が入ってきてこれから出動すると。俺が指名した者はイッソウヨウの服を着て整列しろと。よそ行きの服なんですよ。戦争行く時とか、儀式の時に着る服。一番いい服なんですよ。それでこれから出動するけども少しぐらいの負傷でひるむようなことがあっちゃいけないという勇猛果敢に行動しろと言う班長の訓示があってね。う?と思ったけどもまだ分からない≫

「寝てらっしゃる場合は麻布なんですか?」

≪そうです≫

「じゃあ前の日に井の頭に移動させられてみんながくたびれて寝てるって感じなんですか」

≪そうですよ。それで井の頭でみんなで駄菓子屋へ行って大福とか買って食べたんで2年兵に総ビンタくらったんですよ。それで涙ながら床に入って少したって揺り起こされたっていうやつ。裏庭に集合するって言うんでそれで野中大尉の指揮下に入ったわけ。≫

※当時小さん師匠は1年兵。兵隊になって1年目。

「あの2・26にでてくる野中大尉?」

≪ええ、そうです。≫

「あの方がいらしたんですか?」

≪そうですよ。人員を点検しろって静かにね班長が点検して。ではこれから出動するってみんな白襷でね。将校なんかはね≫

「すごいですね」

≪それでずっと営門を出ちゃう。それで今の防衛庁、あそこが歩兵一連隊だね。ずっと降りて六本木の方に向かって≫

「溜め池の方ですよね」

≪で2年兵に聞いてみた「これはなんなんですか?」って。そしたら「俺もよくわからねえ」って「偉い人を襲撃する奴がいるからそれを警備に行くらしい」って。「そうですか」って。警視庁を取り巻いて裏門に重機関銃を据えてそれに弾を入れていつでも撃てるようにしとけと。≫

「まだ(軍隊に)お入りになったばかりなのに」

≪こっちは夢中だからねわかりゃしねえ。前にも予行演習やってたんですよ襲撃の。また演習やりにきたのかなってのんびり煙草ふかして見てた。すると野中大尉が「1個小隊は警視庁の屋上を占領!!突っ込め」って言ってみんなでワーって突っ込んでいった。みんな驚くよ。本物になっちゃった≫

「師匠は機関銃をそっちの方に向けて」

≪いつでも撃てるようにして。でもそういう具合だからガタガタはなくて≫

「そのうち雪が降ってきて」

≪その時は雪は降ってなくて夜に降ってきたのね。大雪。その辺を警備して人も車も入れないようにしてね。なにしろね警視庁にいる間は分からなかった、何をしてるのかね。≫

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黒柳「ちょっとこのあとお話が長くなるんですがこれが2・26だったんですけども、その後にみんな1箇所に集められて野中大尉が「俺に命を預けてくれ」とおっしゃったんだけども、みんななんかね預ける気配も無かったんですって。そしたらね飲み物も食べるものも無いから「お前落語やれ」って言われてやったんだけどもみんな笑わなくてあれほど辛い事も無かったんですって。そこにお腹がすいてるなと思ったら親子どんぶりが1つ来たんですよ。60人で1つ食べろといわれて(笑)食べて散開したっていうお話をされてるんですけども」

小三治≪そうですか。私は今の画面を見てましたけども、その話はともかくあの表情や・・・・・・・話し方から・・・・・亡くなったのかなってまだ疑ってるって言うかピンとこないというか。それが正直な気持ちですね。亡くなったって本当に思ったら涙止まんなくなっちゃうよね。話は面白いんだけどもこれを見てる視聴者の方はそれを聞いてらっしゃるんだろうけども私はそこを通してのこれまでのいろんな幻燈のようなたくさんチラついてきて辛いって言うんじゃないんだけども本当に居なくなったみたいだなって、でも生きてるじゃないって思ったり。あの親が亡くなった時に両親が亡くなった時に「ああーこれで俺は1人で生きていくんだなって」思ったんですよ。まさか師匠が亡くなった時にそういう気持ちになるとは思いませんでした。やっぱり親かある意味では親以上だったんだなーって。俺1人になったなあってあの時感じました。まだ何日も経ってないからどうなっていくかますます分かりませんけどほんといってピンとこないですね≫

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1994年6月13日

黒柳「威勢のいいお上さんが亡くなって今年でもう16年月日のたつのは早いものだとビックリしておりますけどもただうれしいことは小さい方のお孫さんが今度真打におなりになって史上最年少だそうです。大きい方のお孫さんがモーリス・ベジャールという世界でも最高峰のクラッシックバレエ団にお入りになって男の方ですけどもダンスをやっていらっしゃると。それもベジャールをご覧になった時にどうせやんならああいうのがいいねっておっしゃったらその通りになすったというお孫さんで。柳家小さんさんが今日のゲストです。あの男の方だからこういうの覚えてらっしゃらないかもしれませんけどもこの着物はおかみさんが」

小さん≪そうですね≫

「最初師匠と一緒に出てくださった時に「今日は徹子ちゃんのとこに行くから新調していくよ。これ新調だよ」っておっしゃったんですよね。それでその後にお亡くなりになってお嬢様が形見とおっしゃってくださったんですね。その後(小さん師匠が)何回もおいでくださったんですけども割と近かったもんで私も悲しい気持ちがしましたけどもこれだけ時間がたって出ていただけたんで。おかみさん見てくださってると「おかみさん着てきましたよ」。これは普通のお着物に見えますがつむぎのような上等な。お嬢様にもよろしくお伝えください」

≪どうも≫

「モーリス・ベジャールという世界最高峰のバレー団をご覧になって」

≪見てて素人でもわかるんですよ。見てて面白い。娘にも勧めて≫

※家族写真登場

「お嬢さんのお孫さんなんですよね。左側にいらっしゃるお孫さんが今度真打になる」

≪娘がね親の方が生まれるとこれはすぐに噺家だって決めてたん。≫

「どういうんですよね不思議ですよね」

≪よくしゃべるんですよ。子供の頃から人を笑わせるような事が好きで≫

「お名前が花緑(かろく)さんと。」

≪ええ≫

「ベジャールに入ったお兄ちゃんを見たときにお嬢さんは落語家にしようとは思わなかったんですよね」

≪ええつまりね暴れる事が好きだったんですよ。こんなに暴れる事が好きなんだったらバレエでもやらしたらいいって(笑)≫

「(花緑さんについて)でも小さんの孫だから(真打になるのが)早いんだろうって言われるのはおいやでしょう?」

≪いやいや方々で言われたっていいんだって。事実そうなんだから。だからそれをきっかけにして誰でもみんなそういうチャンスがあるんですからねそのチャンスに乗れなくちゃダメなんだって。みんなが引っ張ってくれたって当人ががんばって修行しなきゃどうにもなんないって≫

「花緑さんはこのごろお若い方は飽きっぽいのにすごく熱心なんですって?」

≪やり始めたら一生懸命やってるようですね。それでも物足りないからね不勉強だっていうんですけどね(笑)。当人はやってるつもりなんです≫

「同じ高座におでになる時もあるわけ?」

≪あります≫

「気になりますか」

≪ええ、時々袖で聞いてて後で注意してやるんです。≫

「息子さんのサンゴロウさんの時は?」

≪同じですよ。≫

「何もいわない方もいらっしゃいますけどもああしろこうしろっていわれると直しようがありますよね」

≪ですから誰の注意も受けて自分で持って工夫していかなきゃいけないですけどね。≫

「修行というのは落ち着いて寝てるようじゃダメだっておっしゃってるんですって?」

≪昔師匠に言われたんですよ「お前よく寝られるかい?」って。「はい、よく寝られます」っていったらいいねえってよく寝られてねって言った事があるんですよ。何言ってんだと思ったけども自分がそういう所にたって見るとなるほど寝られない。夜中に飛び起きたりね。考えたりね。≫

「常に落語のことを考えてグッスリ寝てられなんか居られないものだって」

≪そうですね。夜中に飛び起きて側に寝てったお袋がどうしたんだって言った事もありますけどね。それぐらいじゃなければだめなんだ≫

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黒柳「暖かい方だったんですね。こうやって拝見していると」

小三治≪まあとっても暖かい人でしたよ。恐い人でしょ?って言われる事もあります。私が初めて会った時は入門する前だったんですけどもその時に目があまりにも澄んでいて綺麗で、他の噺家さんたちはニコニコ笑ってるのに全然笑わないんですよ。ただ目を見ると誰よりも澄んでるんです。目が。≫

「へえ~~」

≪綺麗なんです目が。その向うまで澄んでるように見えるんですねえ。そこに私は惚れたっていう事でしょうかね。噺家らしくはどっちかというと無かったですね、内の師匠の師匠にあたる桂文楽という師匠の方がヨーとかハーとか言ってずっと噺家らしかったですけども噺家というよりも武人というんでしょうか≫

「”心卑しきもの噺家になるべからず”と」

≪はい、それは入った時から言われてました。でもどういうのが心卑しくてどういうのがいやしくないのかっていうのは言わないんです。自分で考えろってある意味で実に放任主義でした。何にも教えてくれないといってもいい≫

「ああそうですか」

≪その代わりほっとかされる恐さというものがありました。何とかしなきゃって弟子はそれぞれもがいたですよ。こうしろって親切丁寧に教えてくれる師匠じゃありませんでした。本当に恐かったですね。ほっとかれたのが一番恐かったですよ。でも顔見るとまあるいでしょ。本当にまあるいですよ(笑み)。前ばかりじゃないんですよ。肩もむんで後ろまあると丸いんですよ。上からのぞくと上の投影図も丸いんですよ(笑)みんな丸いのどっから見ても≫

「でも今年の2月に親子3代で会をおやりになたっていうんですから本当に現役のままと言ってもいい」

≪本当にありがとうございました。みなさんに可愛がっていただいて≫

「私達も本当に楽しませていただきました。(小さんさんにむけて)師匠お上さんにお会いになりましたか。何でこんなに早く来ちゃったんだよって叱られてるかもしれないけども本当にありがとうござました」

≪どうもありがとう≫

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