2002年6月17日
黒柳「今日のお客様は(かわい はやお)文化庁長官でいらっしゃるんです。この1月から」
河合≪はい≫
「おめでとうございます」
≪いえいえあまりめでたくはないですけども≫
「こういう方がなってくださるのは私達にとってはありがたいんですが、自由な考え方をなさるんですが今日はなぜこんなに物が豊かな日本人が自身がなくて将来に希望が持てないなんて言ってる人が大勢いるんだろうと、そういう相談をずーと受けてきた人なんで。それで日本臨床心理会の会長でいらっしゃって京都大学の心理学の名誉教授でもいらっしゃるんですが精神科医でカウンセリングをやってる人とはどういう風に違うんですか?」
≪精神科医の人はお医者さんですから薬を使ったり注射をしたりできますが、私達は話し合いだけですから全然医学的な治療はできません≫
「英語で言うとサイコロジストというのが先生で。日本でも悩みを抱えている人が多くて先生に悩みを(打ち明ける)。でも50年前に日本一のいい先生になるぞと高校の先生におなりになった」
≪もともとは大学の先生になるつもりはなくて高校の教師で一生いるつもりだったんですが、そうすると高校生がどんどん相談に来るでしょ。でも心の問題で相談に来るのにいい加減な事を言ってはいけないからどうしても臨床心理学を勉強しないといけない≫
「もともとは数学の先生なんですよね」
≪ええ数学もやりながら臨床心理学もやりながらあまり日本でやってる人はいないのでどんどんのめりこんでそちらの世界に入り込んでしまったんです≫
「それでスイスとかアメリカなど発達している国に留学なさいましてお帰りになって40年近くそういう方と接してらっしゃるという事なんですね。この40年間で人間の悩みは変わってきましたか?」
≪そうですね根本的には人間の悩みは変わらないと言いますけども悩める人の数は増えてるといえますね。それと今中年の方だったら気分が沈んで何もできなくなってしまったというのがすごく増えています≫
「重症な治しにくい人も増えている。どんな風にそうなるんですか?」
≪中年のヨクウツ症になる方は1つのことがどんどんできるわけですよ。できるんだけど世の中が変わると急激に生き方を換えたりしなくてはいけませんねえ。がんばってきたほど変わらない≫
「変えられない。」
≪ある意味では非常に優秀な方なんですね。変ることができたらいいんですけどね。極端な場合自殺とか≫
「今大変な数の人が自殺していて多くの方が今までがんばってきた人で。お気の毒にねえ」
≪ですからそういう方は良くなると前よりよっぽど良くなるという感じですかね≫
「ストレスにならないという人は人がどんどん話が変わっていく時に変わっていっても話に付いていける人はストレスにならないと(※変化に柔軟に対応できる人)さっきの話はどうなったのっていつまでも思ってる人はストレスになると。」
≪がっちり考えていく人はね≫
「真面目な人はね。真面目な人が生きにくくなってる」
≪ちゃらんぽらんな人はストレスはないけど周囲の人はストレスをもらいますよね。≫
「それにしても日本はこんなに豊かなのに子供たちがどうして希望がないのかってみんな思ってるんですけども」
≪これは日本の場合は物の方に意識が行き過ぎたんですね。親は物の無い時代の人だから物さえ与えれば豊かになると思って「これも食べなさい、これも持ちなさい、これも勉強しなさい」と。人から与えられるという事は希望がなくなってきますよ。物がないほうがあれも欲しいとかこれもやりたいとか希望が出てくるでしょう。物が一杯あるときに何に希望が持てるかとか物があるときに人間はどう生きるかということを考えないままで物の方に集中しすぎた。≫
「しかも豊かになるスピードが速かった」
≪むっちゃくちゃに速かった。≫
「みんなが付いていけないほどのスピード」
≪典型的な例をいいますと子供には何でもやりたい(※あげたい)という人が子供に一杯本を買うわけですよ。自分が小さい時は本は読めなかったんで一杯全集なんか買ってきて(子供に)読め何ていうとですね、子供は読む気が起こらんわけですよね(笑)見るだけで。物が多いだけで心が押さえつけられるという非常に変な事が今起こってるわけなんですね≫
「今おっしゃった事はちょっと考えてみるという事が足りないということで」
≪そういうことなんです。物が豊かになったんだからそれに見合うだけ心を使いなさいと≫
「どうしてもお金・物って。昔はお金よりも大事なものがあるって教わって来ましたけどね」
≪お金がなかったからそう言わずにはおれなかったんですね(笑)≫
「豊かになる速度が速くなっているので夢や希望を持つ事が難しくなっていると、でも後戻りするわけには行かないので今の段階から考えるという事が大事と。私もそう思いますこの間アフガニスタンに行ったんですね。去年の7月に行ったんですけどもタリバンが居ましてタリバンがいる間は世界中から支援がないですから女の子はがっこいへ行っちゃ行けない、外に出ちゃいけない。なんにも希望がなくて絶望だと思ったら羊飼いの少年が地雷を踏んで片足を無くしたんですね。運良く義足をつけてもらったんですけどもその子が杖を持って義足の練習をしながら「うれしいなあ~」って何がうれしいの?って聞いたら「また山に帰って羊と共に暮らせます」って言ったんですよね。その時に胸が一杯になって日本の子供はこういうことでは今は喜べないんだって思って。日本人でも病気になって治ったら「ああ良かった」って言うけれどそうは喜べないですよね。」
≪心を使えば希望は一杯あるわけですよ。≫
「インターネットを使って北極の天気は分かるのに隣の奥さんの気持ちは分からないという事はどういうことだと先生はおっしゃってますが」
≪(パソコンやテレビで)いろいろな事が分かると思ってるが自分の足元のことは分かってない。≫
「スイスやいろんなところでお勉強されて個性という事が大事だという事になってるんですけども、今は当たり前のように個性だ個性だって言いますけども私が48年前に芸能界に入った時は私は個性が強すぎるって全部番組を降ろされていたんですね」
≪ハー≫
「「また来ちゃったの」って言われて、でもNHKの専属だからどっかへやっちゃうわけには行かなくて降りてくださいという事で毎日降ろされていたんですけどねその次の年から個性っていうようになったんですけども個性を出せ出せっていっても段々にね」
≪それを間違うのは磨かれるから個性になっていくわけでしょ。財布からお金を出すみたいに個性を出せって言うから個性教育で何か変わったことをやらなくてはいけないようになってしまうんですね。普通の事をやって鍛えられてる中から個性が生まれてくるわけでしょ、そこんとこが分かってないですね≫
「それで今のお話なんですけども考えなくてはいけないという事は当然何ですけども、私達は考えないでこの何十年を生きてきたような気がするんですね。しょっちゅう教え込まれないと忘れちゃうみたいな。そこがおかしいんですけども子供みたいになっちゃってるんですね。欲しいったら欲しいんだもーんって、今電車の中でお化粧してる子が一杯いるって通勤電車の中でお化粧してる子が(ここで)しなきゃできないんだもーんっていってる子がいて子供と同じなんですけども。先生はアメリカインディアンのナマホ族の生き方に関心をもってらっしゃる」
※上の文章の説明:本来は自宅で化粧をしてから出かけるのが普通とされているが通学・通勤電車で化粧をしている女子学生やOLが増えている。理由は”(ここで)しなきゃできないんだもーん”という子供っぽい理由である
≪はいはい今の日本は・・・本当は日本はそういうものをもってるから行ったんですけども今の物物と追いこまれてるのとまったく逆でして向うの人はまったく自然と生きてるという感じなんですね。次に何が欲しいという感じではなくてお日さんをみればありがたいという感じですね。極端に言うと大地の上に立ってるだけでありがたいという感じで。昔の日本人はそうだったろうと思うんですよね≫
「あの今写真が出てましたけどアメリカの中にナバホ国というのがあるんですね。コロラド、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコ州にちょうどまたがってるところにこういう国がある?」
≪あるんです。実は私も知らなかったんです。今はねえネイティブ・アメリカン(インディアン)なんていい方してますけどもその人たちのいき方が好きで行ったらばナバホの国があってびっくりしたんです。なんとかして自分たちの自主性を認めて欲しいという事でアメリカ政府も認めてですね、それは本当の国ではないんですけどもある程度の独立性を認めたんです。ですから彼らなりの政府を持っていますからね。≫
「すごいのはアメリカのど真ん中に居てアメリカの文明にどっぷりいながら自分たちの物(文明)を守っていくというのは並大抵の事ではないんでしょうね」
≪やっぱりその強さというか、その強さに感激して行ったんですけども。一番感激したのは非常に落ち着いて生きてらっしゃるからどういう宗教ですか?とナバホの人に聞くと宗教なんか言葉がないというんですね(※”宗教”という意味の言葉が無い)。言葉がないということはどういうことかというと生きてることが宗教そのものだから。しかし日本でも昔はそうだったと言えんこともないんですね≫
「仏教を習いたいって言う人が「どうして仏教を習ったらいいんですか?」って聞いたら「じゃああのお坊さんを見ていてください」って言ったのが昔ありましたよね」
≪あります、あります≫
「それと同じことだと思うんですけども。あの人(ナバホ族)たちと付き合ってると癒されるって、今癒しという言葉があるんですけどもあの人たちは電話もないところに暮らしているわけですよね。それで癒されたいって(生き方を)真似なんかをしてるとあの人たちは怒ってるんですってねえ」
≪この頃は癒しが流行っていて「癒しを急ぐと卑しになるよ」って言ってるんですけどもね(笑)。ナバホの生き方そのものを取り入れて生きるんだったら大丈夫かと思うんですけどもそこでやってる儀式なんかを真似てちょっとやってみて「ハイ癒されました」ってそんな事は絶対ありえないですよ≫
黒柳「今のお話の続きなんですけども癒されたいと言う人が多い?」
河合≪多いです。それは毎日セカセカと忙しいでしょ。それで疲れて帰ってくると職場も戦場家に帰っても戦場(笑)戦ってばっかしでしょ。癒されるところがないという感じでしょうねえ≫
「お店に行けば癒してくれるものって売ってるんですけどもナバホの人たちは別に人から癒してもらわなくても」
≪生きてるわけですから≫
「さっきお話してくださったことを書いた本のタイトルが”ナバホへの旅 たましいの風景”」
≪風景そのものの中にも魂が入ってるっていう感じですね。そんなかに生きてますからね≫
「自信がないとか日本はなんだか貧しいんじゃないかって言う人には日本の文化をちゃんと教えてこなかったんじゃないかって」
≪ここは難しいところですけどもやっぱり現代に生きてる限りは現代社会に生きていかないといけない。どんどん西洋のものを取り入れていかなければいけないんだけども元々持ってるものも守らないといけない。その2つのことをやらなければいけないんですね。日本の大変難しいとこだと思いますね≫
「そこで考えないといけないと。自分たちは世界中のことが瞬間的にわかるようなもの(パソコンやテレビ)を持っているんだけども」
≪それで終わりにしてはいけないんですね。例えば冷房も暖房もありますけどもうちの家は冷房は使わないんだと。お客さんが来たら冷房をするけども普段は暑かったら裸で居るんだとかなにか抵抗しないといけないんですね。何がいいとかではなくて俺はこうしてるとか家はこうしてるとかあるところは強いですね≫
「日本は100%ぐらいカラーテレビを持ってるっていってるんですけども、なんかこの前フランスに行ったらテレビのない家があってサッカーがあるとよその家に見にいったりしてるんですよね。買えない訳じゃないのに。なんか自分で買わない決めている人がいて」
≪私の尊敬する先生はテレビがないんですよ。その人はホテルに行ったらずっとテレビを見てるって(笑)≫
「おもしろいから」
≪こんな面白いものはないって(笑)。でもないのもいいんですよね。いっつもつけっぱなしでは困る。そこをどう考えるかでしょうね≫
「テレビの前に子供を置いとくと静かにしてるっていっつも子供をテレビの前に置いとくというのも」
≪物のある分だけ工夫がいるということですね≫
「簡単なお話なんですね自分の家らしく考えてみるとか工夫するということでなんだか豊かだと思ってるのに豊かではないということが克復できるんでしょうか?」
≪子供わねえ自由して好きなことをさせると面白い事をしますよ。それをねえ先につぎ込むからダメなんですよ。≫
「それから偏差値というものがありましてわたし(河合)先生に聞いて驚いたんですけども偏差値が低くて学校がここは受けられませんといっても誰にも止める権利はないんですね(※偏差値が高いところを学校や教師が受けないほうがいいといっても受験させない事はできない?)」
≪そんな事はないです。それは本人がここを受けたい(受験したい)という限りどこを受けたって構わないです≫
「みなさん文化庁長官がそうおっしゃってるんですよ。ちなみに私の姪がですね(志望している学校には)入れないと言われたのに3度交渉に行ってそこの陸上部に入りたかったんで受けますていってそれから猛勉強して結局入ったんですよ。それまで勉強してなかったのもいけなかったんだけども人間っていきなり勉強したりもありますよね。」
≪偏差値は1つの目安なんですよ。落ちますって言うのは神さんでない限り言えないですよ。「落ちる可能性が高いよ」というべきところを”落ちます””止めなさい”と言うのは絶対おかしいですよ。≫
「子供を小さい頃から選別してあんたはよし、あんたはダメって。私はだめなんだあ~てことになってるんじゃないかって」
≪あれをふっとばさないとダメですよ≫
「分かりましたうちの子は勉強ができないですけどもこの子は試したいといってますから自分で受けてダメだったら納得しますので受けさしてくださいといってもいいんですね?」
≪いいどころかどんどんやればいい。しかももっと感じが悪いのは偏差値が悪いとまるで悪い子みたいに言うでしょ。偏差値が低いというだけなんですよね。その子はもっと他の事ができるかもしれないし、優しい気持ちで言えば誰よりも優しいかもしれない。ところがね優しい気持ちなんて数字で出てこないんですよ。優しい偏差値なんてないでしょ(笑)。そこをみんな間違ってしまうんですよ≫
「ただお勉強の事だけで」
≪”お勉強”でしょ”勉強”じゃないんですよ。本とにね(笑)≫
黒柳「偏差値が低いからといって能力がないというわけではないと」
河合≪絶対そんな事はないです≫
「まったくちがうことで才能が開くかもしれないし。特に先生は子供を信じてらして子供はすごいと」
≪みんなにダメだとか言われたり、私達のところに来る子供は非行少年とかレッテルを貼られて来るんですけども我々が構えて会っていたら本当に変わってきますからね。本当にどんどん変わってきますからね大したもんですよ。ちょっと待たないといけないですよね≫
「いますぐ結果が見たいというのが現代の」
≪ちょっと慌てすぎなんですよ。≫
「私は思うんですけども私は2、3ヶ月で小学校を退学になったのでねそのトットちゃんという本を書いたんですけどもその校長先生の教育がありがたいと思ったのは40年以上経ってからなんですよね。だからいますぐ目先の事ではないんですね」
≪私このごろ学校に行かない子がいるでしょ。高等学校3年休んだとか中学校3年休んだとか≫
「登校拒否」
≪3年なんて全然問題にならないと。あなたの友達が80で死ぬんやったらあんたは83まで生きとったらいいんやと。3年ぐらいでくよくよするなと。すぐに取り返せると。実際そうなんです≫
「そうなんですよね。小さい頃から一生懸命勉強していい学校に入っていい会社に入ることも偉いんですけども定年になってからもその後も生きていかなくてはいけないんだからその後が」
≪その後が長い長いですよ。それにいい学校に入っていい会社に入ってももっと悪い事をする人はいますからね。だからなんで先の先までわが心配をするのか(笑)。見てましてもね自分の足で歩いている子は大したもんですよ≫
「自分で選ばせる。あまり小さい時はあれですけども押し付けない。」
≪そうそうそう≫
「選んだものを後押しをする」
≪それに子供が物を言ってる時に聞いてやればいいのに聞かない人が多いんですよ。「お母さん~」ってくるでしょその時に(子供の次の言葉を)待てばいいのに「勉強しましたか」って言ってしまうんですよ(笑)。≫
「今忙しいとか。私のことばっかし言うのもなんですがトットちゃんの校長先生は普通の学校を退学になってその校長先生の学校に行きましたよね。4時間私の話を聞いてくださったんですよ。」
≪それはすごい≫
「それでこの人いい人だなって私は一生涯信頼したんですけども。小学校1年の子供が4時間もよく話すことがあったと思いますが(河合笑)もし少しでも退屈にしたら私話すのを止めたと思いますけども一生懸命聞いてくださったから4時間も話してそれで私はとっても良い子になったんです」
≪それは素晴らしい教育者ですよ。子供わねえ本気で聞いてるか上の空できいてるかすぐに分かるんですよ。≫
「私も先生がちょっと上の空で聞いてたらすぐに止めたと思います」
≪だから私はこの仕事がすきというか誤魔化しがないというか1発勝負で真剣勝負で。そのかわりちゃんと会ってる限りはみんなからなんと言われてる子でも向き合ってきますよ≫
黒柳「もう時間があっというまですが旦那さんが奥さんの話を聞かないという事もよくない?」
河合≪それも真剣に聞かないからですよ。上の空で聞くから(奥さんの話が)面白くないんで、本当に聞くと結構面白いんですけどね(笑)。それで話が成立すれば子供の事はほって置いてもいいというぐらいですよ。≫
「家庭が崩壊してるのに子供に学校で仲良くしろと言ってもダメなんですよね。」
≪悪い見本をいつも見せてるわけですよ。≫
「会社で疲れて大変でしょうけども奥さんが居るなら奥さんの話をよく聞く。聞いてみると結構面白い」
≪みんな勘違いをしてるのが会社が忙しいでしょ、で家で節約しようとするのが間違いで機械じゃないんですから人間てのは使えばより元気になるんですよ。話を聞いて元気になって会社行くと。それが分からなくて会社でエネルギーを使って家で節約しようと言うのは人間と機械(ロボット)と間違ってる考え方ですね≫
「一杯寝るとぼんやりする時がありますよね。少しは寝た方がいいんですけども、ずいぶんの主婦が旦那さんに不満を持ってるというデータも出てますからやっぱり旦那さんは奥さんの話をよく聞く」
≪はい、それが絶対大事です≫
「結論を出すのが速すぎるからゆっくりと結論を出して、子供の話もよく聞く。お母さんがあんた馬鹿じゃないのとか子供にいうと泣いちゃいそうなのかわいそうで」
≪本当にね≫
「どうも文化庁長官」