2002年3月5日
黒柳「それにしてもお母様が今年95におなりになる」
吉行≪そうです≫
「お元気でねえ。この間来て頂いた時はメキシコのピラミッドを何のピラミッドでしたっけ」
≪ユカタン半島にあるピラミッドなんです。行ったときは91でそれからネパールへ行きまして中国へ行きまして≫
「あなたその時なんとかして行かないようにしてたのね」
*注:吉行和子さんとそのお母さんであるあぐりさんがメキシコ旅行に行く計画を立てていた
≪ヘルペス(仮病)でね≫
「あなたがヘルペスができたから妹さんのリエさんに言ったら止めた方がいいわよって言うかと思ったら「あの人に黙って二人だけで行きましょう」って言われちゃったのね」
≪止めるとかどうにかしようとかそういうのは全然ないんですよ自分で行きたかったら行っちゃうというそういう方・・・そういう方って≫
*注:結局2人でメキシコに旅行することになる
「でもメキシコのピラミッドの石段にお母様がほおづえをついて座ってらっしゃるのを見たときこの人は明るい人なんだってつくづくお思いになったんですって」
≪そうですね明るい人っていうか明るくなったんだと思うんですよ。今まではしっかりした顔で恐い感じだったのねそうしましたらウワーって明るくなって内の親って結構美人って思ったんですね。≫
「テレビドラマになったり朝の連続テレビ小説になったりで明るくなったんじゃないですかね。本当に素敵なお母様であっさりしてらっしゃるところがいいのね91でメキシコのユカタン半島のピラミッドに行かれてどうでしたってうかがったら「まあよくきたなっていう感じだったわね」という答えで」
≪あんまり感激の言葉がないんです。ネパールへ行ったときでもねえネパールは明治みたいで懐かしいでしょって言ったら「あなたは見てないからそうかもしれませんけど私は見てますからちっとも」とか言って≫
「ネパールってすごいところで標高3900メートルに世界で最も高いところにお寺があるんですって。ここはヘリコプターで行ったんですって」
≪ここはさすがにヘリコプターで行ったんです≫
「でも3900メートルって立ってるだけでもすごいじゃないですか」
≪私は3000メートル以下で呼吸困難になりましてボンベくわえっ放しででも親は全然平気で。でも規則ですからやりなさいということで無理やり向うについてからは(あぐりさんも)やったんですけど≫
「あらーネパールへ行って喜んでらしたお母様は」
≪フフフ≫
「そこでですか有名な占い師がいたというのは」
*注:占ってもらうあぐりさん
≪その人に97でちょっとトラブルがあるけどそれを乗り越えれば103歳まで大丈夫ですよと言われて帰りにねあたるのもしゃくだからその前に死んでやらなきゃって(会場笑)≫
「おもしろいわね。あなたがどこにいらしても一日一回お母様にお電話なさると何か面白いことあるって聞くと何もないから逆立ちでもしてみようかしらって言って本当にしないものでもないんですってねえ」
≪やりかねないですねえあの調子だったら≫
「どっかで(ネパールで)子供が石蹴りしてたらいっしょにやってらしたんですって?」
≪私に隠れてやってみたんですってそしたらさすがに足が痛くてって。向うではそういう遊びを子供たちがしてるんですね≫
「このごろ日本の子供は石蹴りなんてやってないわねー。私たち子供の頃はあんなのしかなかったんでね」
≪そうですね≫
「お母様は懐かしかったんでしょうね」
≪そうですね≫
「次に2000年に中国へいらして93歳のときに。」
≪これはテレビじゃなくて中国のことをレポートする雑誌の仕事がありまして行ったんですけど母は仕事だから私は遠慮するわって言ってたんですけど手紙が入ってまして「どこで駄目になっても同じだから私はあなたと一緒に中国へ行きたい」って。≫
「そのメモもチラシの裏って決まってるんですって」
≪そうなんですよすごい節約家なんです≫
「じゃあいいわってなったんですか」
≪しょうがないから連れてったんですけど理由は上海に行くことになったんですけどエイスケっていう自分の夫が住んでたことがあるっていう情報を手に入れてましてどんなところだろうと思ってたらしいんですねもう60年も前の話なんですけどねえ行きたくなっちゃったみたいなんですけど≫
「あなたもまあいいやってことで。まあすごいですね93歳って言ったら飛行場にたどり着くのでも大変ですよね」
≪へっちゃらですね。機内食はしっかり食べるし≫
「飛行機の中ではねたりするの」
≪いや寝ないんです長いときは寝たりしますけど本を読むのが大好きでずっと読んでるんです。そしたらねえ岡山の人なんですけど昔はねえ岡山と東京を16時間ぐらい平気で行ったり来たりしてたんだから平気だって≫
「蘇州もいかれたんですか?」≪ええ行きました≫
「綺麗な所だったでしょう。私たちが思うような中国っていう感じがありますよね。あそこに人工の湖があったでしょう」
≪そうですねそしたら母が「まあこういうの作らされた人はかわいそう」って(黒柳笑)≫
「そうですね私もそう思いました作らされた人わって・・そうそうおなかがすいた人はかわいそうということでご飯の中に賞味期限が切れたものが入ってくるんですって」
*注:吉行あぐりさんと娘さんである和子さんりえさんは同じマンション内の違う号室にに住んでいる
≪そうなんでも賞味期限が切れてもおなかが一杯でも食べきらないと気がすまない。だってアフガニスタンやいろんな子供たちをテレビで見てますでしょそういう子供を見てたら残せないわって言ってそれはいいんですけど私たち用心しないと何を食べさせられるかわからないって≫
「でて来るもので時々何かわからないものが出てくるんですって」
*注:吉行あぐりさんは今も現役の美容師として活躍されている
≪そうですね。90になってからお料理に目覚めましてひまだからお客様の数も少ないから。それで肉じゃがの作り方とかも貼ってあるんですけどその通りにするのが嫌なんですね。自分流でしたいそれにはってこの賞味期限が切れたものを入れるんですね。肉じゃがだけだったらどんなにおいしいかと思うんですけど(笑)≫
「かならず大根おろしが出るんですって」
≪そうなんです体に良いと信じてるらしくて。出てくるときは「これ大根おろしよ」っていうんですね。で3回目ぐらいに見たら分かるわよって言っちゃたんです。そしたら富士真奈美がかわいそうだって大根おろしはするのに大変だって「大変だったでしょありがとう」って言いなさいって言われてまた出てきたら「するの大変でしょありがとうって富士真奈美から言われたから言っとくわ」って言ったら≫
「なんて」
≪富士真奈美さんていい人ねえって言ってましたけど≫
「本当に(笑)。今まで外国へ旅行へいかれてましたけど去年初めて国内旅行にいかれてお母様と初めてお布団を並べて寝た」
≪私が知らない頃赤ん坊の頃は一緒に寝てたらしいんですけど隣に母が寝てるということはないんです≫
「お母様は仕事だったから。」
≪地下鉄の階段が近くにあるんですけどそこを登ったり降りたりするんですって≫
「でもねえここにジャイアント馬場さんがいらしてくださった時におっしゃったんですけど私は遺言のように思っているんですけど毎日毎日やってれば何十になってもできますって。一日二日やらない日が出たり、誰かにつかまっちゃたりするとだめですから。ヒンズスクワットと2階に行くのを階段で登ったりしてると90になっても舞台に出られますっておっしゃったの。あなたのお会いするとあなたのお話よりもお母さんのお話になってわるいんですけど」
≪いえいえわたしもあぐりさんを見てると勉強になるんですよ。だから本当に長生きしてくれて良かったなあと思って≫
「妹さんの作家のりえさんも同じマンションに住んでらっしゃるんですけど全部違う部屋(違う号室)で住んでらっしゃるんですけど紅白歌合戦を見るときも別々に見るんですって」
≪そう。≫
「そのぐらいは一緒に見ないってなりそうに思うけど」
≪いつも暮れはおすぎとピーコの家に行きましてわいわいわいわいするんですけど今年は彼らも忙しくて始めてぐらい1人でいたんですよ。家は変だなって思って一緒に見る気にならないのね≫
「一緒に見ないっておっしゃりもしないの」
≪見たいとも思わないらしいんです。≫
「私大好きになったのあなたのお母さんのこと。本当にねぱっと見たときには分からないけど不思議な女らしさがある方ね。女の人の持っている不思議なやさしさがある方だなって。あっさりしてるでしょ」
≪そうですねあっさりしてくれて助かってます≫
「28で結婚なさったんですけど旦那さんのところに帰ろうと思うと・・・それまで周りに動く物がなかったんですって」
≪びっくりしましたね結婚して人がいるって(笑)本当に申し訳ないんですけど コリャ駄目だって思って≫
「うちに帰ろうと思うと旦那さんがいると思うと嫌なんですって」
≪ははははは。そうなんですね≫
「動物も飼ったことなく」
≪ないです。花もねえ見てる分には良いんですけど自分の部屋にあるとねえ生きてるでしょ花って落ち着かない≫
「お料理は相変わらずしないの」
≪しないんです≫
「たまにお客さんがいらしたりすると茶碗にお茶の葉っぱを入れて水を入れてチン(電子レンジ)するってのもやってる」
≪お客さんも来なくなりました(笑)。まあ良いですよ1人は≫
「こういう仕事をしている分には1人のほうがいいかもしれませんけど」
≪家の親がねあなたたちを看取らなければ駄目かしらって言い出したんです。恐ろしいでしょ≫
「すごいと思う。それにしても今度お一人の芝居もおやりになるでしょ」
*注:クーデンホーク・ミツコという人物を題材とした舞台の話。このミツコさんの息子さんがヨーロッパ共通通貨である”ユーロ”の立役者の1人
≪最後にしようと思ってるんですけどねえ10年続いたんですけどねえ「みつこ」っていうお芝居なんですけど。10年の間にずいぶんいろんなことが分かりましてねみつ子さんに対して。息子がユーロが1月から実施されたんですけど私の息子が提案したんですよ。ご覧になったことがあるって≫
「昔ねえNHKでねえ。大きい方だったですよ。日本のあの方の息子さんがねえ」
≪だから私はほとんどみつ子の感覚になって良かったとか、新聞にユーロってでるとハラハラしたりね≫
「息子がせっかくやったのに」
≪そうそう。いよいよ今年の四月で終わりにします≫
「これで終わりにしようっていう「クーデンホーク・ミツコ」はいつ」
≪4月11日から14日まで三越劇場でいたしますんでぜひいらしてください≫
「それからあなた”折梅(おりうめ)”という映画でこの役以上の役はないという映画を」
≪はい≫「痴呆の出た」
≪78歳の実在した人物の方の役で≫
「その折梅という映画ももうじきやるんでしょ」≪はい春に≫