2002年4月5日
黒柳「どうもしばらくでございました。今日で10回目のご出演なんですけど毎回びっくりするようなお話をしていただいてるんです。今日は奥様がこれだけは話すようにというお話がある。家の新築に関して涙なくしては聞けない」
池部≪ああ本当にこれは涙なくしては語れないなあ。今までに住んでた家が30数年立ってたんですよ。夫婦2人だけでは広いもんだからねえ全部壊して新しく立て直したの。≫
「暮らしやすい家にしようと」
≪それでねえ設計家の人も知っている人もおられるんだけど、まあねそういう人たちとやり取りしている間に感情の行き違いがあるといけないから知らない方をお願いしようというのが事の始まりなんですけどね。≫
「ええ」
≪まあその建築家が良いとか悪いとかじゃなくてなかなか思ったようにやってくれなかったんだよね。≫
「設計の段階で吹き抜けになってたんですって」
≪そう設計の段階で吹き抜けになっているから「これはちょっと困るよ」と言ったんです≫
「しゃれてるからいいんだけど冷暖房も大変だし夫婦2人だけだから(吹き抜けは)止めて欲しいとはっきりおっしゃたんですって」
≪”ハイハイ”言ってるから直してくれるんだろうと思ってたわけ。今冷暖房の話になったでしょこれがねひどい目にあっちゃったわけ。≫
「出来上がったら吹き抜けになっていてしょうがないからそのままお住まいになってたら」
※池部さんは吹き抜けにはしないでくれと言っていたが出来上がったら吹き抜けになっていた
≪5月になって引渡しがあってね「やれやれこれはいい家だな」って言ってたんですよ。でも暑く(夏に)なってきたら冷房が効かないんですよ。それと吹き抜けになってるから天井が抜けてるんで日差しがすごいんですよ。≫
「奥様家の中で日傘さしてるって」
≪日傘さしてね(会場笑い)ローブデコルトってご夫人がこんな長い手袋あるでしょ、それはめて包帯して≫
「日が当たっちゃうから」
≪それからサングラスして(会場笑い)≫
「もちろん日焼け止めクリームなんかも塗って」
≪ああもちろん。それでもって熱いから夫婦でねえ生き絶え絶えなの≫
「新しいお家でそれじゃあねえ。それで直して欲しいということになったら直してもらったんだけど見栄えが悪くなって」
≪見栄えはそうでもないんですけど。とにかく工事やってる最中冷暖房全部直すって天井全部はがしちゃったのよ。そういう工事をやってる家に今までずーと住んでたわけよ。またつまんない原稿でも書こうとしたらガガガガガってうるさいから書けない。家内も大きな声なんだけど聞こえないんだね≫
「声も聞こえないぐらいの物音」
≪聞こえないから怒ってね夫婦喧嘩になってね。とにかく今も(工事)やってるんですけどね≫
※池部さんの奥さんが池部さんを呼ぶ声が聞こえないので喧嘩になる
「今もやってるんですか。外側のタイルなんかもバラバラはがれてきちゃったのもある」
≪よく分からないけど接着剤の具合が悪くてはがれてきちゃったの。”申し訳ない。申し訳ない”って工事の施工会社が言うわけよ。研究しましてやり直しますからって言って全部はがしたわけよ≫
「どういうわけか分からないけど池部さんの書斎に水がはいってくるんですって」
≪本を見たら濡れてんだね。よく見たら本棚の後ろから水がジュジュジュジュジュって≫
「雨漏り。す・・ごい」
≪これ自慢する話じゃないからあまり詳しく話せないけど≫
「なにか新品を頼んだのになにか中古の家に住んでるような感じなんですって」
≪そうねえ中古っていうか中ぶるっていうか≫
「涙がかれるほど泣いちゃうことだったんですって」
≪今涙が枯れちゃってね声も出ないんですよ≫
「本当にね奥様もお若い方で20ぐらい若い方でしたかねえ。20ぐらい若いんだけどとにかくコンパクトにね住みやすい家にしようって思ってたのに家の中で日傘さしたり雨がもってきたりそれはひどいですよね。でもまだ(工事)やってる」
≪ええ≫
「去年の5月に渡されたものがまだ工事をやってる。でもそんなに怒ってらっしゃると元気が出るんじゃないですか?」
≪最初は怒ってたから元気なのよでも怒り尽くしちゃってね元気がなくなってきちゃう。≫
「元気な方なんでそれはいいんですけどもうご結婚して41年」
≪そうですね≫
「ずいぶん若い方とご結婚なさったっておっしゃってたんですけど随筆30冊ほど書いてらっしゃるんですけど”(奥様に対して)ありがとう”みたいな事は書いてらっしゃらないんですって」
≪ああ1つもないんじゃないかな≫
「本当に!」
≪僕は東京生まれで東京育ちで照れ屋ってとこもあるんですけどねえどんなに心で感謝してもねえ口に出すのは辛いのよ。自分が惨めになっちゃう≫
「ああそう。そこが男の人のプライドなのかなあ」
≪素直にねえ家内にねえ「ありがとう。毎日本当にありがとう」って1時間ごとに言ってやりたいの≫
「奥様がご覧になったらそういうお気持ちですので内助の功ががあったと。でも奥様は感謝してないって時々おっしゃるんですって(笑)」
≪「口だけだ」って。僕が本当に心から感謝してるって信用しないんだなあ≫
「1時間ごとに感謝してるって言いたいぐらい感謝してるって」
≪これから30分ごとにしようかな(笑)≫
「ご飯のことから本当に気を使ってねえ」
≪本当にそう思うなあ。なぜか家内は全部自分でやりたがる。とてもいい癖なんだけどご飯の仕度ってのは3度3度でしょ。昼飯夕飯何を作ろうかって考えるのは大変だと思うなあ。≫
「お手伝いさんもなく奥様一人で」
≪いや手伝いいるんですけどね≫
「全部自分でやりたいと。お元気だから全部自分でできるんでしょうね」
≪そうねえ。でもそうねえって言ってしまうと「そんなことないわよ私は弱いわよ」っていうんですけど。≫
「今日だって池部さんの出演に当たって家の事は絶対しゃべるようにと言われたんでしょ」
≪これ言うとまた怒られちゃうんですけど言われてきました≫
「今までずいぶんいろんなことお話してくださったんですけど外国の女優さんのこと。奥様が知らないこともあって大変なことになったこともあんのね」
≪なるべくならね彼女が全部知っていることを話したほうがいい≫
「池部さんは映画スターですから演技の方は皆さんご存知なんですけどお書きになるものが大変に評価されてさっき申し上げましたが30冊ぐらい」
≪はい≫
「向井聡さんていう文芸評論家の方がこの一月に亡くなってしのぶ会があって」
≪向井さんはねえ純粋な文芸評論家でねえ1度しかお会いしてなくて遠い人だと思ってたんですよ。去年ねえ向井さんが”残る本残る人”という評論の本を出されたんですよ。その中にねえ僕の書いたものが1篇載ってるのよ。≫
「ええ」
≪それでねえ丸谷才一さんから言わせるとねえ(向井さんは)褒め上手の褒め殺しみたいな人っておっしゃってたのよ。(向井さんが)褒めてくださってうれしくてねえ僕にとっては恩人みたいな人と思ったところ亡くなって残念で≫
「それでしのぶ会にいらっしゃたと。取り上げてくださったのは”そよ風時にはつむじ風”のことでお父様とお母様のことをお書きになった」
≪親父とお袋というより親父とお袋と私と≫
「ご存知だとは思いますけどお父様は画家で漫画家で池部等さんといってお母様は岡本一平さんというすごい漫画家の妹さん。岡本太郎さんのおばさんにあたる。」
≪そうね叔母さんにあたります≫
「だから爆発だって言う方と池部さんは従兄弟同士」
≪そうです。9つ違うのかな≫
「そういうお父様のことお母様のことをお書きになった本が載ったんです。この前出ていただいたときに話が途中になったんですけど奥様と一番最初にお会いになった時にまだお互いがご存知ないときに”青い山脈”っていう大変大ヒットした映画で(池部さんが)30でいらしたんですけど大学生の役をやってらしたんですけど立教女学院でテニスのシーンを撮ってらしてその時に低学年の子がその辺でちょろちょろ見てた」
※池部さんが出演された映画「青い山脈」でテニスのシーンがありその撮影を立教女学院でしていた
≪スギヨウコさんとテニスをするシーンがあるんだけどバックに誰も来ないように助監督やらが人をどけていたの。そこにねえゴマみたいのが≫
「ゴマだって。ちっちゃいのが」
≪小さいのがいるから「ここ撮影やってるの向こうへ行ってちょうだいね」って言ったの。そしたら「私の学校です」って生意気に言ってねしまいに「どけ!!ガキ」って言ったらねそこの中に彼女がいたらしいんだな≫
黒柳「ごまの中にね(笑)。それが池部さんが最初にあちらを見てゴマ(池部さんの奥様)が初めて池部さんを見た時だった。その後偶然のことでお見合いということになってボウリング場でなんか」
池部≪今はなくなっちゃったけど青山に日本で初めてできたボウリング場があったんですよ≫
「知ってます。人間が手で並べてていやでしたよね(笑)」
≪そこでねラジオのパーソナリティをやっておられた南谷さんという人がいてこの方がねぼくも知ってるし家内の方も知ってたんですね。どういういきさつがあったか知らないですけど”いいお嬢さんがいるんですけど見合いはいかがですか”って。まあまあって感じで≫
「その時は映画スターでいらしたんですね」
≪もちろん。で彼女の方にも何か話したんでしょう。でいよいよボウリング場でお会いしますからということになってそしたらラジオのパーソナリティだから話はうまいけど芝居は下手なのよ。≫
※今の奥様と池部さんが偶然出会うという設定だった
「フフ」
≪言ったらばそこにはゴマが。いやゴマじゃなくて≫
「元ゴマ(笑)」
≪いるんですよ。ぼくの方は見向きもしない。南谷さんがいたから「こんにちは」って言ったら(南谷さんが)「いやあしばらくですね偶然に」って。何が偶然だって≫
「芝居が下手なのね」
≪それから一緒にボウリングやりませんか?ということになって。それが見合いだったということで≫
「でも奥様と21年も結婚されてるんですからその南谷さんという方がね。奥様はそれが見合いだって知ってたのかしら?」
≪いやいや今にいたるまで知ってたのかもしれないけど「知らないわそんなこと」って。大体池部良っていう映画俳優のことを知らなかったんです≫
「年齢がね」
≪いや年齢じゃなくて映画を見てないの。私が好きなのはゲーリークーパーとね・・・・・≫
「ロバート・テ-ラー」
≪そう。池部良ってのは誰?それって感じで≫
「でも絶対あのころ日本映画みんな見てましたからね」
≪池部良知らないっていうのもおかしいと思うんだけどね≫
「最近お書きになった”心残りは・・・”という大スターが語る日本映画の黄金時代たくさんの人のことがでてるんですけどでも表紙の絵があれ(気に入らない)何ですってねえ」
≪これ気に入らないのよこんな長い顔してないよ僕は≫
黒柳「当時の映画スターが黄金時代を書いてらっしゃるんですけどまあ大抵池部さんのは笑いながら読んであとでジーンとするっていうのがあるんですけど紹介したいと思うんですけど。お父様とお母様と一緒に住んでらした家での事でいい話があるんです~ここから文章朗読~。この”心残りは・・・”というのは映画スターとしての一種の自叙伝」
池部≪これはねおととしかな東京新聞に100回で連載したんですよ。”この道”って≫
「そうそうそうそう。いろんな方のことをねよく覚えてらっしゃるなって。全然違うんだけど夏目漱石の”坊ちゃん”の雰囲気がユーモアの感じが共通したとこあるように思っちゃうんですけど」
≪いやあそれはとってもうれしいんだけど夏目漱石は東京の人間でしょ。そういうところが関連性があって≫
「そうかもしれませんねえ。もう終わってしまいますけどまた来て頂くんですがどうぞお家がなるべく早く(笑)」
≪ああ、ありがとうございます。≫
「気持ちよく住めるといいですね」
≪応援してください≫
「私は応援してもねえ(笑)。工事が終わるだけでもねえ物音がしなくなるだけでもねえ。ありがとうございました」