2002年6月24日
黒柳「大人気の梅沢武生劇団の座長でいらっしゃいます。23歳から座長をしてらして副座長が下町の玉三郎の富美男さんなんですけども。富美男さんはいつも座長が座長がってお兄様の事を大事にしてらしてらっしゃるんです。というのも鼻をたらしていたどうしようもない子を今のような素晴らしい女形になさったのはこのお兄様なんですから。今日のお召し物がいいなと思ったら」
梅沢≪これは富美男が作ってくれたんですよ。7月1日から27日まで明治座で前川(清)さんとやるもんですから、それでいつも劇場に行く時は亡くなった母親が作ってくれてたんですけども亡くなった後はいつも富美男が作ってくれてるんですよ。≫
「そうですか。でも日本の生地は不思議だと思うんですけども2枚重ねる事によってこういう風に波模様が出る。」
≪富美男が作ってくれたものですから着てこないとと思いまして≫
「あのあれなんですってねえそんな歳が違わないのかと思ったらずいぶん違うんですね?」
≪11違うんです。≫
「ねえ。お兄様拝見していると勝新太郎さんに似てるって言われません?」
≪ありがとうございます。若い頃は似てるって言われたものですから着物着てサングラスかけて、似てるって言われるのがうれしくってちょうど内の劇団で座頭一をやってましたものですから物真似でよくやらしていただいてそのお陰で劇団が持ってるようなもので≫
「そんな事はないと思いますが、梅沢富美男さんは綺麗な女形をおやりになるんですがどうしようもない鼻の穴を大きく書いてちょび髭を書いた頭のはげた3枚目の役をよくやってらっしゃいますね」
≪あれはなぜかというと15で親父のとこにいきましたから富美男は3、4つでその時からスターだったんですよ。≫
「あの方子役でスターだったんですってねえ」
≪それで私の場合は芸はやってこなかったものですから(親父は)富美男に(芸を)教えてもらえと言うんですよ。私は長男であいつは一番したじゃないですか。≫
「しかも鼻をたらしていて」
≪ええ、それでおしめをしていて中々おしめが取れないで下半身がだらしないものですから。そんな富美男に芝居を教えてもらえって言うんですよ。色気がつく頃ですから私が。≫
「いやですよね」
≪でも芸事というのは先輩後輩ですから、いくら弟でも先輩なものですから手をついて教えてくださいって頼むんですよ。それで2回までは教えてくれるんですよ。それを繰り返してやると下手なんですよそうするとあいつがワーと泣きましてですね。そうすると幹部連中が飛んできましてですねあのころトンコって言ってましたからね「トンコ泣かすのはだれだ!!」って。口惜しくて口惜しくてですねいつか今度は俺が座長になったらあいつを使ってやろうと思って一生懸命勉強しました。そう考えると芸事の恩人かもしれませんねえ。≫
「あれですよね梅沢富美男さんはいきなりあんな綺麗な女形で出たとお思いかもしれませんが実は小さい赤ん坊の頃から舞台に出ててスターでそして天才子役と言われていてお兄様は中学生の頃まではなにもやる気が無かったんですけども今話された事でやるようにはなったんですけども教えてくれてもすぐに泣いたりする」
≪そうです意地悪いんですよ≫
「で座長になったら使ってやろうと」
≪私が座長になったら生涯こいつを使ってやろうと。それもいい役は私がやって富美男には3枚目の役とかおじいさんとかおばあさんとか敵役の親分とか。ところがですね富美男は化粧が早いんですよ。親父の頃は40人ほど座員がいたんですけども私の代になってやっぱりいろんな事情があって座員が少なくなったんですね。そうすると1人何役もやらなくてはいけなくなって富美男にはうってつけなんですね。良い役をやらせなければいいんでですから斬られたらすぐに次のものに変わって、あれは3枚目の方がよかったんで。男役はあいつはやってたんですけども女役は嫌いだってやんなかったんですよですから無理にやらせる必要はないとおもってたんですけどもタイミングを見てあいつにやらせなければいけないんで≫
「でも富美男さんが女形になたtらきれいになるだろうなっていうのはありました?」
≪それはありました。お袋に似てますからね。私の顔と富美男の顔はちょっと違うんですよね≫
「似ているように思いますけどね」
≪富美男の場合にはねえやっぱりまん丸でペタッとした顔ですからね書きやすいんですね≫
「この顔がどうしてあの(女形の)顔になるだろうって私達は思いますけどね。色っぽいんだけども近寄りがたいんでも無いんですね」
≪それはですね(女形になるのを)嫌がって嫌がってだめっだったんですよ。でもためしに1回やってみろって。その代わり女になっちゃいけないよ。頭は女のカツラ、着物は女の着物、顔は書くのは女の顔で脚が広がってもいいからなんでもいいから自分の雰囲気だけを使って3分間だけやってみろと。ところが今までやってませんでしたから急に富美男が出てきた時に富美男って気が付かなかったんですが富美男と気が付いた時にワーと声が上がってだからねえ富美男としてはうれしかったんじゃないですか≫
「綺麗だから受けたんじゃなくてみんながあまりビックリしてやってもいいって」
≪これでいけるなって。私の相手はぜんぜんやらせませんでしたから、というのは女形というのは子供の時からやっぱりお花の稽古もしなくてはいけないし着物もちゃんと自分で着れるようになんないといけないし踊りの稽古もしなくてはいけない。女のしぐさを全部覚えなくてはいけないんですけども富美男の場合にはできませんでしょ≫
「鼻たらして野球をやってましたからね」
≪(笑)だからお前は女形の色気じゃないぞと。女形にはどうしてもなれないんだからかっこだけは女の格好をして男の色気を出せと≫
「そんな事をおっしゃったんですか」
≪あとは亡くなった父親は私に歌舞伎を見に行けといいましたが私は富美男には言わなかったんです。見たらできなくなってきますから。だからお前は付き合っている女の人のしぐさをよく見とけと。お酒を飲みにいったりホテルに行ってもいいしその時の女の人のしぐさを見ておきなさいと≫
「藤十郎の恋じゃないですけどもねえお仕事で一緒にいってるんだから何もないと思いますけども」
≪そのしぐさを真似したらお前は女形ができるかもしれないと。今の女形は私じゃなくて富美男が作ったようなものかもしれません≫
「どういう風にこの梅沢武生劇団がやるのかちょっとご覧下さい~VTR再生~おおお。素敵ですねえ。昔なんかああいう風にお兄様がみえをきりになった時に1万円札がばんばん飛んできて」
≪ええ、富美男はすごかったですね。富美男からですからね。富美男の場合には(お札)まくんですよ。本当はいただいたものを足で踏んづけるのはタブーなんですよ。ただ富美男の場合にはやれといいました。裾がながいですからそれで廻すと舞台のお金がもう1回舞うんですよね。≫
「着物の裾で舞う」
≪そうすると別の方がまた持ってきてくれたり色々考えるんですよね。≫
「そうです。昔は実入りがよかったっておっしゃってましたけども」
≪ただ女形さんは約束事がありまして立ち役(男役)の前に出てはいけないという約束があるんですけども富美男には構わないから前に出ろと。お前を見にきてるんだからもっと前に出て行けと。俺はお前をカバーしてやるから、お前はへたくそなんだからあっち見たりこっち見たり指差して笑ってろって≫
「でも今は兄ちゃんはきりっと見得を切っているところであの方は前のほうに半分でて色気で客席のほうを向いて兄チャンのほうの後ろに行ったり色々していますよね。(笑)」
≪ですからちゃんと教えておかないといけないんでマインドコントロールっていうんですかそれも富美男にはやっとかないとだめなんですよね。人を使う時には。そういう風に言っておくと分かるんですね。あいつは運動をやってましたから体が女形の体じゃないんですね。ですから腰が落ちないとか膝が曲がらないとか言うんですけども色々言うんですけどもそんな事関係ないとお客さんはお前の顔だけを見ているんだからそこをちゃんとお客さんに見えるようにしとけと≫
「こういうお兄様がいるから富美男さんが今のようすばらしい女形でいらっしゃるんだと思います。ここにいらしゃる時はお兄さんの事を尊敬してらして座長が座長がっていつもおっしゃっていますよ」
≪ありがとうございます≫
黒柳「」
梅沢≪普通だったら長い事やってますし、いつも私に怒られてますからいやになって独立したいなっていう気持ちもあると思うんですがあいつはそういうところを絶対に見せないんですね。別々にやったりするんですけどもあいつの場合は俺の側にいてやるって決めたからじゃないんですかね。それがよくわかってるから富美男の好きなことをやらせてやりたいんですよ≫
「私すごいなって思うのは最初は役者をやりたくは無かったんだけども中学生からやるようになって子役でスターだった弟さんに教えてもらっていて今度は中学生になる前は富美男さんは福島の方に疎開をしていて、そして気が付いた時は鼻をたらして中学生で野球をやっていてあの昔の子役はいずこやらっていう風になっていてそれで劇団に入る事になってこいつには2枚目の役はやらせないぞとおもってるんですけども、すごいのはお兄様が脚本・構成・振り付けを全部やってらっしゃるんですけどもお兄様でなければあの富美男さんは生かせないと思ってらっしゃるんで」
≪やっぱりあいつの子役の時のすごいのをみてますから。それと亡くなった母親とダブって見えるんですよ。≫
「綺麗な女優さんで」
≪立ち役もやりますし女形もやりますし歌舞伎もやりますし剣劇もやりますし3枚目もやりますしそれと富美男がダブって見えるときがあるんですよ。富美男には1つづつやらして俺よりも富美男のほうが座長でいいんじゃないかなっていう所があったんですよ。あのそれをすぐに譲るわけにはいかないんで使えるだけ使ってやろうと思ってますよ(笑)≫
「そういう風にお兄様はおっしゃってるんですけどもお兄様のところには子供がいなくて、それはなんか後に彼が座長になってお兄様のところに子供がいたりなんかするとあれなんでできることなら富美男さんに座長になって欲しいからお作りにならなかったんだっていう話もあるんですけども」
≪それはねいくら兄弟であっても私に女房ができた場合は子供だできた場合は女房や子供が大事ですし兄弟よりも親よりも大事じゃないですか。ところが富をは数段上の芸事でも何でもできる。それとちゃんと弟をかばってくれるものと一緒にいるんでしたら富美男も納得してくれるんですがそれは段々変わってきますからその時に兄弟げんかしなくてはいけないしその時に富美男も去っていかなくてはならない。ただそういう思いを父親と母親にさせたくはなかったんです。父親と母親はこの仕事が好きで私達を旅しながら育ててくれたんですから、ですからお袋は死ぬまで役者だったし父親も死ぬまで役者だったんですから親父からいただいたものですから次は富美男に譲ってやんなきゃいけないですからそんあことでバラバラになってしまってはいけないと勝手に考えたんですけども。富美男もそれが分かってるから内から逃げ出さないで居るんじゃないですか(笑)≫
「すごいなって思うんですね。そこが俳優同士の厳しさでもあるんですけども、ご自分にお子さんがいてその人がすごく良くてその人に継がせようと思ったら弟さんに継がせようと思ってるのにってね。お子さんを作らないようにしてるって奥さんにしてみるとねなんでって思うかと」
≪作る行為は好きなんですけども、なかなかねえダメなもんで(笑)≫
「富美男さんはわざと「作り方知らないんじゃないの」っておっしゃったりするんですってねえ(笑)分かってゆってるんだと思うんですけども。彼がどんなに有名になってもね梅沢武生劇団の中にいてねいっしょにやってるっていうことなんじゃないかなって」
≪やっぱり親を悲しませるということが一番いけないことですからね。だからなるべく亡くなっても親父とお袋が見てくれてると思うんである程度意見の交換でもめることがありますがそんなことは舞台の事なんで私生活でもめる事はありませんから富美男は自分の考えてる事があって私は私で考えてますから、でも富美男は”ハイ”って言いますから。俺はお前の兄貴であって座長だから舞台では座長だよって。舞台が終ったらいい兄弟でいい兄ちゃんでいたいから。でも舞台の上では座長で師匠と同じだから何でもいいから俺に言われたらハイって言えって。少し立ってから武兄ちゃんあん時は少し違うんじゃないかって言われるとあんなときはすまなかったなあって言えるんですけども、やっぱり座員がいますから座員の前で反抗するような事を見せるとダメですからあいつはなんでもハイといいます。≫
黒柳「でもあのお兄様の武生さんは15歳の時から座長になるべくして劇団にお入りになったんですけども、始めの頃は何にもできなくて座員の人がヒソヒソ悪口言ったのを聞こえちゃったりしたんですって?」
梅沢≪最初はこんな簡単なものはどうってことはないんじゃないかと思って初舞台の時に父親が化粧をしてくれたんですよ。ところがその顔を見たらあまりにもひどいもんですからなんだこの顔はって思ってたんですけども、(舞台に)出ていったらば真っ白になってしまって何がなんだか分からなくなってしまったんですよ。≫
「目の前が真っ白で」
≪気が付いたらみなさん引っ込んでしまって私1人が舞台に残ってたんですよ。そしたらその頃は意地の悪い役者さんばっかしですからみなさんが引っ込んでるのにあんただけ出てるのはどういうことですかって、帰んなさいって言われて帰ろうと思ったら襟首を捕まれて「そこは入り口ですから入ってきたところから出てください」と言われてそこから出ようと思ったらぞうりを履いてる事をすっかり忘れてぞうりを持ってけって言われてあの短い花道が100m走ったように長かったですよ。昔は花道の下が並びになってますからそこで人の悪口をみんなで言ってるんですね。ヒソヒソ話なんですが役者なんで声が通るんで私に聞こえるようにヒソヒソ話なんですよ。あの頃は気が短い方だからウ!!と思ったんですけどもいわれてみればその通りだなって。私がへまやって笑われるのは私が笑われるんじゃないんだなって座長やってる父親が笑われるんだなって。そこからですよがんばろうと思ったのは。がんばろうと思ったんですけども富美男ってものがいまして≫
「赤ん坊みたいなものが生意気言ってるから」
≪あいつは起用で舞台で居眠りしてるんですよ。セリフなんてないですから。自分のセリフの時になるとおきて。ああいうところが天才だったんでしょうね。まず座員の若い人を追い越さないといけないと思いましたし、まず富美男を追い越さないといけないと思いましたし。ですが富美男の場合は父親が義務教育だけは絶対に受けないといけないと≫
「学校を」
≪ですから中学校を卒業するまでは親元を離しますから≫
「それで福島の方へ」
≪あいつが中学を卒業するときにはわたしは座長になって出てきましたから、よし一番頼りになって一番欲しいのは富美男だなって思いまして野球選手になりたいとか色々言ってましたけどもあの頃はハンバーグなんて簡単に食えない時代だったんでハンバーグを食わしてやるから東京に出てこいと。それで上野で富美男に食わしてやったんですよ。それでそのまま劇場に連れて行って敵役の親分をやっていた人が具合が悪くて寝ていたものですからお前出ろっていってそのままあいつを出したんですよ。(その頃の富美男さんは)小さかったんですよ、それが大きい人を引き連れて3枚目の顔をして出てきたものですからお客さんがワーと笑ったのと、福島にいたもので言葉が東北弁だったものでしゃべった時にまたお客さんがワーと笑ったものですから笑いが受けたと思ったんですね。富美男がこれだけ入ってるお客さんを満足させられるのは(野球選手ではなくて)役者しかないなって思ったんじゃないでしょうか。≫
黒柳「なんて素敵なお兄様、素敵な兄弟だと思いますけども7月1日から明治座でおやりになる。」
梅沢≪はい。前川清さんといっしょに≫
「渥美清さんがすごくファンでねよく2人で行きましたよね。でも富美男さんが座長が座長がっていってるのが本当に良く分かりましたね」
≪いえ。これから富美男に嫌われないようにいい兄ちゃんで続けますよ。≫
「本当にありがとうございました」