2003年1月29日
黒柳「よくいらしてくださいました。杉浦日向子さんであ、今は先程ご紹介しましたように長谷川町子さん以来もうずっともらっていなかった女性の漫画賞文芸春秋で出していらっしゃる漫画家の賞漫画家でお取りになったんですけども
杉浦≪おそれ多いことで本当に重たい賞だったんですけども。あっさり廃業してしまってだいいひんしゅくで
「本当に廃業なさったの?
≪絵筆を完全に折ってしまって絵のかき方も忘れちゃったような感じですね。
「10年前から隠遁生活に入ってらっしゃるんですけども、
≪34の年に思い立ちまして隠居しようと、隠居宣言というものをしまして。一朝一夕になれるものじゃないんですね。やっぱり世間様に認めてもらわないと
「おお江戸でござるとかでてらっしゃる
≪ええ
「お江戸でござるの最後のところに
≪ちょこっとですけどもね。
「起こったいろいろなことについての江戸はどうだったかということご説明というか解説してらっしゃるですけども。そういうのやってらっしゃるのでみんなは隠居となかなかわからないんだけども。なぜ隠居をしたいのか。もちろんみんな隠居せざるを得ない状況、しなきゃいけない状況なってることが多いと思うんですよね。だけど自ら進んで三十三三十四のときに隠居をしようという人は珍しいと思うんですよね。なんとか現役でやっていきたいという人がいる中でですね。風流江戸雀というので文芸春秋の賞を取りになったんですけども、それで10年前に思い立って隠居。どういうことから?
≪隠居というと大抵皆さんリタイアと同じ同義語だと思われるんですけども隠居というのは実は日本独特の文化でして暇をクリエイトする人なんですね。つまり現役の方ボウチュウカンアリでを忙しいさなかにちょっとした暇を楽しむんですけども隠居になってしまうとカンチュウボウアリでいつも暇でたまに忙しいという。そのたまにが自分の場合NHKにちょこっとしたもので。ほかは一切お仕事をお受けしていませんのでテレビは。こちらは本当に20代の時にうかがったので10年ぐらい前。
「そうそうそうそうずいぶんお若い時にいらして下さった。われ以来なんで。じゃ他のものも書いていらっしゃらない?
≪ええまず連載は持たない。
「(写真)ちょっとごめんなさいこれ初めていらっしゃった
≪若いですね。
「若いよりもなによりもこういうあのちょっとアレですよねあの樋口一葉かと思ったんですけども。
≪自分でもびっくり。
「こういう格好でいらしてくださっていたんですね。でも隠居になるとこういうお召し物やなんかはあれなんですって。
≪楽な格好にしてどこにでも寝そべるような感じで
「前のものはどうしたんですか?
≪ものはちゃんとリサイクルに回すようにしまして。ほとんど物を買わないですね。隠居してから。着回してますしそれこそリサイクルショップで古着をかう。これなんかも古着なんですけども。物を増やさない持たない出世しない、つまり去年の年収よりも今年は上回らなくてもいいという暮らしぶりなんですね。それと悩まない。この3無いなんです。
「3無いとおっしゃいましたけども、持たない出世しない悩まない。事実隠居してらっしゃるとそうなります?
≪で生活の道具をどんどん減らしてシンプルにしていくんです。テレビとかを買い替えるときにインチを小さくしていくんですね。逆に。冷蔵庫も小さくしていく。
「分からなくはないですがいつごろからそんなことをお考えになっているんですか?
≪17の時からですね。17の補時に長く生きたなという感じがしまして後倍折り返し34まで行ったら隠居したいなと漠然と思っていたんですね。
「まあ大橋巨泉さんという方も50で隠居しようと決めてであとはそういう素敵な楽な生活をしようと思いなったそうですけども、日本人はなかなか隠居ねそういうふうには、この方の場合は隠居じゃなくて引退とおっしゃったんですけどもね。そういう風には思えないものなんですけどもね普通ね。
≪隠居すると何がいいかというと有り余る時間が全部自分のものなんですね。朝パッとおきたときにきょう1日何しようかなから始まるんです。スケジュールを立てないのがいい。
「それはわかるんですけども収入とか
≪減りますね。3分の1以下なので3分の1以下の低エネルギー生活をしています。
「じゃあまあギリギリでも生活できるぐらいのお仕事なさる。
≪それは扶養家族がいないという恵まれた条件だったのでこんなにわがままができるんですけども、皆さんにお勧めはできませんけども自分は今楽であってますね。
「いま世界で1番の金持ちというのはあれなんですってね
≪時間持ちなんです
「時間持ちなんです。お金もないといけないですよね。今はお金があるけども使っている時間がないという方がほとんど。それはお金持ちではないんですってね。
≪そうですね。
「本当のお金持ちは遊ぶ時間もたっぷりあり休み時間もたっぷりあってお金もあるという人なんです。
≪時間持ちをリッチマンというです。
「大概の人は時間はあるけどもお金がないという人がほとんどなんです。でもあなたのように自ら進んでお金はいらないと入ろうと思えばいくらでもお金が入る方法があったのかもしれないのに。何かあなたの家に泥棒が入ったのに取るものはなかったというのは本当なんですか?
≪あの空き巣が入ったらしいんですね。でお隣のお家に入ったついでにうちも入ったらしいので、その泥棒が捕まった時に隣にもついでに入ったとおっしゃってくださったそうなんです。でお巡りさんがいらしてなにかとられたものはありますか?。そのとき初めて知ったんですが何も(笑)。
「入った形跡も
≪形跡も分からなかったです。いろいろみたんですがとられたにしても思いだせないものだったらなくてもいいものですよね。
「まあそうですけどね。
≪被害はないということですね。
「江戸時代なんかは、まあ江戸時代のご専門でいらっしゃるんですけども江戸時代はどうしてなんでしょうね。
≪カギがないですから出かけるにしても在宅しているときにはシンバリ棒でカギをしますが外からかける鍵がないんですね江戸は。
「泥棒は入れなかったんですかね?
≪入っても出て鍋とかそういうお皿とかぐらい、取るものがない。
「庶民の家には取るものがなかったんですかね。
≪そうですね。
「隠居については江戸時代はどうだったんですか?
≪江戸は隠居の活躍する時代でしてとにかく40というのが老いの坂、入り口というんですね。私も2度目の成人式を過ぎて4年たつですけども色事は40からおもしろしといいまして、若いときの恋愛は繁殖するための義務が伴うわけですけども40からの恋愛は本当の遊びとしての恋愛になっていくんです。で他の道楽も若いときには仕事をしながら後ろめたさを負いつつ道楽をするんだけども40からは道楽を中心に生活が回っていってもしかられない。
「じゃあ江戸時代はそんな感じで。
≪歌舞音曲や盆栽、それから芝居もそうですね。すべて隠居文化なんですね。隠居が有り余る時間を紡いで築き上げていったもので10年早い20年早いという世界がたくさんあったわけです。
「じゃあそういうものしょっちゅうやっているので別にこれ老人性なんですかねぼけとかにはならない
≪不良老人が多いぐらいですね。
「なるほどね。40になってから色事が面白しと言っているんですからね。
≪経済は若者が動かすもの、文化は隠居が紡ぐものという役割分担をしているんですね。ですから今の中高年はもっと遊ばないと文化は生まれないですね。
「お金がないとみんな言っていると思うんですよ。今の中高年はね
≪お金を使わない遊びも江戸のころにはたくさんありまして、1番多かったものは言葉で遊ぶ。
「なるほど。
≪俳諧もそうですね。
「そうですねえ俳句なんていうのは
≪狂歌を読んだりとか。言葉をいくらこうしゃれた言葉をしゃべるかというのがその人が培ってきた人生経験が長いほどボキャブラリーが多いですから若者はかなわないですね。
「中高年の人たちは何もお金を使った遊び、外国に行くとか買い物をするとかじゃなくてそういったような知的ない自分の積み重ねのものの中から遊びを考えてお金もかからないヤツで遊ぶことは十分できるんですね。
≪下町のおじいちゃんなんかはとてもダジャレ好きでしゃべっているって間にポンポンいろんなダジャレがでますよね。
「考えてみると昔なんだかおじいさんとか縁談みたいなところに座って漠然とこういらっしゃった方々は隠居していたんですかねみんな。
≪隠居に近いリズムで生活をしていたんですね。隠居のリズムが身にしみてくると江戸がよく見えてくるんです。忙しくしていると江戸は単なる資料でしかなかったんですけども今呼吸するみたいにとても気持ちよく江戸が吸収されていくのがわかります
「前すごい忙しい生活をしてらして隠居生活に入るとし止めどなく寝たりとか止めどなく起きたりとかそういう風にはなりません?
≪最初はやっぱりリズムの作り方がわからなくて4、5年はオタオタしていました。で最近10年過ぎまして自分のペースというのが身にしみて
「どういうの?
≪まあ一応を40からの暮らしということでそれまでの生活を切り離しているんですけども、とにかくマイペースですね。
「もちろんそうなんですけども朝なんかは早く起きるの?
≪私早いんですよ。4時半の1番最初のテレビから見てるんです。
「4時半から!
≪日テレとフジテレビがお天気のテレビを始めるんですよね。それを毎日見ています。
「でお休みになるのはちなみに何時ごろですか?
≪10時には一応寝て大き。それから2時ぐらいにいったん起きたりしてちょっとお酒を飲んだりしながら細切れに寝たり起きたりなんですが早寝で早起きです。
「そんなことも隠居ならば夜中に自分で起きてお茶を、お茶じゃないやお酒を飲んであとちょっとお魚なんかも
≪自分でちょっとこしらえて
「酒の魚を作って。
≪朝早く暗いうちから起きてしらじら明けを見るのが好きですね。でその間に今日は何しようかなと雲行きや空模様をみながら考えを立てていくんですね
「そうするとお仕事していらしたときはそういうもの書いたりなさるだろうと思うんじゃない。その時の心境とか朝ご覧になったものとかそういうものは書いたりはなさらないんですの全然
≪スケジュールは立てないですね。で隠居のコツというのがあってなさんも毎日隠居は難しいんでしょうけども週一回ぐらい隠居生活なさってみたらが楽、気分が楽になると思うんですねえ。そのコツが身の回りから数字のついたものを全部外すんです。つまり時計、手帳、カレンダー、携帯電話全部はずして1日行動して見るんです。
「いいだろうと思いますねいかにもね。
≪いまそうです数字だらけの生活ですよね。
「そうです。テレビを見たってテレビの上には何時というのが出ているじゃないですか。朝からね。なんだって数字から離れられない生活なんですけども。そういうのも身から離してみるとハーと自由な感じになります?気持ちを
≪気持ちがいいですね視界が開けるというかあの本当広々と何でも広々と見えるし何でも何を食べてもおいしく感じるしすごくいい感じですね。
「ただあのアレですね杉浦さんの大きな特徴は隠居してまあ地味な暮らしなんだけども食べ物にはちょっとお金をかけてらっしゃる。
≪まあ飲み食いだけにはケチらないですね。その代わり本当に衣食住の食だけでエンゲル係数ばっかりの生活ですね(笑い)
「衣住はあまり
≪二の次、三の次です
「でお蕎麦やさんにいらっしゃってご本も出していらっしゃる。あれは前にお書きになったものなんですか?あのそば屋さんの。
≪えっと5年前に最初に出版して今度版を重ねて3回目の版なんです。
「重ねているからどんど
≪お店も増えて情報も新しくなっているんですけども。
「今書いてらっしゃるんじゃないんですね。東京とかいろいろなところにあるお蕎麦やさん
≪全国のお蕎麦やさんを一応今回の文庫本では123日を取材しました。1人では無理なのでソ連”そば屋好き連”というグループを祖母
「そば屋好き連
≪まあ純粋会員が15人くらいで全国にソバッチという、ソ連の金バッチというものなんですけども
そう
「すごいですね。
≪蕎麦の実の三角と割り箸とそばチョコでカタカナのソという字になっているんです。
「なるほど
≪そのソバッチ会員が100人ほどおりまして、みんないい大人でそば屋さんで昼間からいっぱい傾けて飲んで最後にそば補をたぐってしめるという暮らしぶりなんですね。老若男女全然職業も出身地も違う人ばっかりで楽しい会なんです。
「なるほどでいまコーヒーショップに行ったらバッとコーヒーを飲んでいこうという人が多い中で、コーヒーもいいけどもやっぱりそば屋でくつろごうということ提唱してらっしゃるのでそれがソ連という。
≪2時4時というのが原則でして、つまりお昼時に食事として入るのではなくて2時から4時のそば屋さんが最も暇そうな時間にぷらっと入って1杯やるんですね(笑い)
「なるほどね。できたらそこにあるお蕎麦やさんにはおいしい
≪つまみもありますので
「つまみがありますのでそれを食べたりなんかして。まぁもっとをうかがうんですけどもこの若さで隠居してらっしゃる方なんですから。ご隠居さん(笑)いろいろご隠居さんにお伺いしなければいけないことがいっぱいあるんですけどもちょっと羨ましい気もいたしますちょっとコマーシャルに行きますコマーシャルです
黒柳「でもまあ漫画家としては本当に賞をお取りになったんだけどおやめになったんだけどもで注文してくれる人がいれば短いものであればお書きになるんですって?
杉浦≪漫画は書かないですね。
「いやごめんなさい原稿みたいなもの
≪原稿は単発ものなら受けています。1000字が限度なんですよ。1000字以上を書かないという。
「200字詰め原稿用紙で5枚以上は書かないということですよね。
≪そうですね。机の前に座って2時間ぐらいで一気に書ける量がちょうどいいですね。でいったん休んでからまた書くというともう飽きちゃうんですね気分的に。だから一気に勝負ができる枚数というんですか
「それはやっぱりお書きになりたいことがあるから、それともある程度収入が隠居してても必要だ。
≪やっぱり書きたいテーマだとお受けしますね。原稿料って微々たるものですから収入にはなかなか出結びつかないですね。
「でもまあそういうお書きになりたいものがあって今でも少しの収入があるものをおやりになっているんですがまあ隠居生活ですよね。であの東京というのは江戸になって今年
≪400年
「400年なんですね
≪1603年に江戸開府ということで
「そうなんですってね。だから400年になっているんですね。
≪はい。たかだか400年なんですよね。京都の方ですと1200年以上経ってますから。
「そうなんですよね。
≪日本の歴史でいうと新興都市なので余計に面白いですね。合理的にできてますし私たちの生活ととても似通っていますね。はい。
「なるほど、私の知っている築地のマグロやさんがいるんですけどもその人は家康と一緒に江戸に来たという
≪あ!三河から。
「そうなんですよ。お前のところの魚はおいしい、これから江戸に行くので一緒に来ないかということで一緒に付いてきた方がですねってまあ初めは日本橋にあったんですがそれから築地におうつりになって今も1年に1度はお伺いしているんですけどもね。
≪関東大震災から築地に移ったんですね。
「あれは関東大震災から築地に移った。
≪日本橋の大橋は日に千両落ちるというすごい活気を呈したところで当時江戸の町が人口100万人で同じ時代のパリやロンドンの倍以上あったというぐらいの大都会だったんですね。そんな中で生まれた文化ですから本当にエキサイティングで面白いですね。
「なるほどね。だからそういうお家もあるんですけども江戸が開府されて400年ですけども、初めの100年はあまりしっかりしていなかったんですって。
≪本当に坂東の片田舎ということですべて上方の模倣していたんですね。京都や大阪から下ってくるもの下り物を珍重しましてブランド化しておりまして、京都から京都や大阪から下ってくるものはみんな高級でいいものだ。それ以外のものは下らないものだ。下ってこないものはたいしたことはないということで”くだらない”という言葉が
「くだらないという言葉はそれから出たんですね
≪そうなんですね。
「そうなんですか。
≪そうやっては100年たってから出てきた将軍が8代将軍吉宗なんですね。で吉宗以降にやっと江戸っ子らしいプライドや自信が持てるようになってきたんですね。都市が整備されてきたということなんでしょうね。
「確かに京都の片やあちらの方は東京をね
≪まだまだ若いと
「新参者と。あちらから比べるとということなんでしょうけども。
≪江戸はたかだか3代続けば江戸っ子ですけどもね京都は100年住まないと京都人と呼んでもらえない。
「本当にそうですよ。あぶり餅というところのご存じですか?
≪向かい合わせであるんです。元祖か本家か分からないんですか
「あの行って右側が1番お古い。そこに行ってねちょっと俵屋さんという、俵屋さんも300何十年です。私たちからするとすごいと思うじゃないですか。それであそこのあぶり餅のところに行っておばさんにおばさんといってもおばあさんでしたけども、おばあさんここのところはどれくらいあるんですか?といったら「平安時代どっさかいにまあ何年になりましょうか」ええ!!平安時代からあったんですかってねしたの穴蔵みたいなところが冷蔵庫みたいになっていてそこにいろんなお味噌とかあぶり餅につけるお味噌とかを仕舞ってあるのね。そこのところにはうんとかがまないと入れないの。昔嫁にきたとき頭を丸髷に結っているのでうんそこがまたぶつかりましたとか言って、そして平安時代からのお家にまあ家は木ですからね作り替えてはいるんでしょうけどもあの全然ずっと同じ内であぶりもち屋さんがそれから繋がってるんです。女の子だったら女の子がやってまた男が生まれれば男の人がやる。そういうところが京都にはまだあるんですからね。
≪京都は本当に伝統文化なんですけども。江戸はサブカルチャーが育った町なんですよね。そばにしてもそうなんですけども五穀のほかの雑穀なんですよね。それはケイコクショクだったわけでおコメが食べられなかった地域でやむを得ずに食べていたんですがそれを粋な食べ物に作り替えちゃったのが江戸っ子の知恵。
「だから東京のお蕎麦はやはりおいしい江戸っ子の食べるものということなんでしょうね。
≪すしとウナギと天ぷらも全部屋台から生まれた食事なんです。庶民が考えたものなんです。
「何かおそば屋さんのカウンターていますかねあのカウンターももともとの
≪お寿司やさん
「おそば屋さんのカウンターじゃなくてお寿司やさん
≪立ち食いの名残なんですね。
「そうそう立ち食いの名残なんですってね。あのこのごろお寿司やさんでもカウンターって何でしたっけ
≪テーブル席ですか?
「いやいや違うあの動いてくるやつ。
≪回転ずし
「あのそうそうそうそうそうそうなんですけどもああいうふうになっているのは立って食べた名残なんですか。
≪3つ4つつまんですっといくのが粋な食べ方で、どっしり腰を落ち着けてたばこでもふかしていると野暮ったいわけなんですよね。
「だからお蕎麦やさんはそういうのがなくて
≪お蕎麦やさんは大人のパブのような忙しいからそばで済まそうじゃなくて、午後ヒマだからそば屋で1杯やろうという使い方
「考えてみれば立ち食いソバ屋は別として普通のおそば屋さんのちょっといいお蕎麦やさんにカウンターてないですよね。考えたら。
≪そうですね。どっしり落ち着けるようになっていますね。
「小さくてもお座敷か畳かテーブルですよね。
≪私くらいの年代の中年の女性にぜひお勧めしたいのが女性がひとりで昼下がりにふらっと入ってお銚子1本と頼んでもお蕎麦やさんではけしてうかないんです。あたりまえのように小さい突き出しとあのお銚子1本を定員さんが持ってきて下さる、その快楽がたまらないですね。
黒柳「さっきから気になってたんですけどもそのイヤリングですけども何か
杉浦≪浮世絵が書いてある。いただきものなんですけども。ええ、ありがたいことです。
「かわいいなと思って拝見していたんですけども。でもそういうおそばやさんで格好よかったとはシンチョウさんだったんですって?
≪素晴らしかったです。日本橋の室町おそば屋さんだったんですけども何度かご一緒するんです。奥の突き当たりの目立たないテーブルで召し上がってらっしゃるんです。目にすると手招きしてくださるんです。も私のあこがれのプリンスですから向かい合わせに座るとドキドキしちゃって何も何も味はっているのかわからないくらい舞い上がってしまってでシンチョウさんのおそばの食べ方のきれいさ。蕎麦のほうから吸い込まれていくようにするするとおそばの滝登りみたいな感じで音もさわやかだしあの形を目にしたら恥ずかしくて蕎麦を手繰れなくなりましたね。人前でね
「どういうことでしょうねあの方そうだったんですね
≪素晴らしい、指揮者のタクトのように本当にリズミカルで休みなくお箸を上下していってきれいに1枚きれいになくなるんです
「生きていたら次に出ていただく時はここで食べていただくという(観客笑い)落語はお蕎麦はなくても言えるんだけども本当のお蕎麦を食べていただくのやってもらいたかったわ。
≪私本当におそばが好きで最低でも年間100食は食べるんですがあんなにきれいな食べぶりをされる方は初めてでした。空前絶後ですね。
黒柳「まあご隠居さんではおありですけども。衣食住の中で食だけはお金を使っても後衣住は
杉浦≪極力控えています。
「控えのご隠居さんがですね世界1周の船にお乗りになった。
≪船道楽。それだけはやめられない。船に貢いでいますね。間男に貢みたいに船に貢いでいますね。
「去年も何かおのりになったんですってそれ?
≪102日間乗って南半球1周してきました。マゼラン海峡と喜望峰を回って
「すごいマゼラン海峡て揺れますあそこ?
≪すごい波ですね。大揺れが楽しくてね。エレベーターの1階から3階までぐらい行ったり来たりをするぐらいにゆれるんです。ベットに腹ばいになっているとフーと浮くような感じでイルカになったみたいです。
「でもあれはお洋服きれいなの着てダンスがあったりとかいろいろあるじゃありませんかあれは?
≪ねえパスですねえ。
「パス。じゃあご隠居
≪ごろごろデッキでビールを飲んだりバーでカクテル作ってもらったり。本当に気ままですね。
「いいですか船の旅は
≪時速だいたい40キロで飛行機で1時間で行けるところ1日かかるんですよ。そのスピードがあっている。
「なるほどね。さっきもおっしゃったように主婦の皆さんも
≪さぼって下さい
「さぼってお蕎麦やさんに行って全然一合頼んでも恥ずかしくないのでソバ味噌かなんかでちょっとチビチビ。卵焼きとか
≪新たな楽しみを開拓してみてはいかがでしょうか。
「そうですよね。でも私杉浦さんがご隠居してらっしゃるとは思わなかった。またご隠居さんおいでくださいませ。
≪はいありがとうございました
「ありがとうございました