2002年4月25日
黒柳「よくいらしてくださいました木野 花(きの はな)さんです。女優としてもご活躍でCMで有名になったんですけど昔からおばさん風の役で・・・」
木野≪主役張る顔じゃないんで狂言回しで脇で何か騒がしくやるというのが多かったです。≫
「町内会のおばさん風という役が多かった」
≪CMは町内会の会長役だったんですけど≫
「今気付いたんですけどオールドミスっていう言葉聞かないですね」
≪はっきりとオールドミスの役みたいな感じなんですよ≫
「青森県の下北半島でお育ちになった方で天才少女になろうと思って・・・」
≪憧れてたんです≫
「16年前に大変有名になったコマーシャルで”もたいまさこ”さんとご一緒に撮られたCMでCM界の巨匠と言われている市川ジュンさんという方が撮った。その方は今でも撮られている」
≪そうです≫
「ちょっとご覧いただきましょう~「タンスにゴン」のCM再生/「亭主元気で留守がいい」のフレーズあり~」
≪これは今見ても斬新ですね≫
「本当に亭主達者で留守がいいというのは昔からみなさんおっしゃることなんですけど今あらためて聞いてみるとね」
≪あの時は何気なく言ってたんですけどこんなにヒットするとは思わなかったですね≫
「(タンスにゴンのCMシリーズの)最初の方ですね?」
≪最初の頃ですね≫
「あれからいろんな方がこのCMをやられてますけども」
≪でもCMもテンションは落ちませんねえ。どんな方がやられても。話題性ありますねえ≫
「お小さい時は松島とも子さんがアイドルで」
≪そういうと歳が分かっちゃいますけど松島とも子さんはアイドルのはしりだったんですよ。≫
「じゃあああいう風になろうと?」
≪あこがれてました。家の裏の方に行ってとも子ちゃんの写真を見て白鳥のポーズみたいなのがあるんですよ。ポーズをとってみたりして気を紛らわせてましたけど≫
「でも田んぼで白鳥の湖(松島さんの物真似をして)を踊ってたらお婆ちゃんが何してんだって」
≪「何してんだべ」って鼻で笑われました。でそれ以来止めましたね恥ずかしくなって≫
「止めたの。でも学芸会におでになって」
≪学芸会は人に見られて何ぼのもんですから大丈夫なんですけどその時は人に見られてると思ってなかったので恥ずかしかったんです。≫
「でも学芸会にはずいぶん出てらっしゃったんですか?」
≪結構でてました”瓜子姫とあまのじゃく”の瓜子姫役で。≫
「村の園芸会なんかを見ているとみんながどんどん出て行って」
≪ええ田舎なんですよ。下北半島の真ん中辺りで。当時青年団と言うのがまだあったんですよ。私(青年団が)まだあればいいと思うんですけどももう若い連中がいなくなって無くなっちゃったと思うんですがその頃はまだいて旧正月(2月)に学校の講堂に村の芸達者な叔母ちゃんとかが集まって踊ったり歌ったりいまでいうカラオケみたいなものですよね。それが本当にうまいんですよ。お化粧してたからよく分からなかったんですけどよく見ると隣のおばさんなんです。あのおばさんはなんでこういう風に変身できるのか≫
「普段は農家のおばさんですからね」
≪いつ練習してるんだろうっていううまさで私にとってはその時の演芸会の様子が焼きついたって言うかものすごく活気があっておひねりなんか飛んだりして≫
「飛ぶんですか」
≪ええそれでそれを軽く受けて「そこのおじさんうるさいんだよ」とか野次なんかを飛ばしてなんかエネルギーがあふれてましたね≫
「それでいてその人は次の日は農家の叔母さんに戻ってる」
≪そうですよね≫
「それがあなたにとっては不思議なこと」
≪それが私にとっての演劇の原点というかね。普段は普通に生活して季節季節に演芸会みたいなもので花を咲かせる場所っていうのが素敵だなと思って≫
「隣の叔母さんがいつ練習してるんだろうと思ってその家の子に聞いてみると「おら知らね」って」
≪そう言われました(笑)。夜遅くやってるんでしょうね。いまだに謎は解けませんねえ(笑)≫
「そういうことをやってらしたんですけど弘前大学教育学部にお入りになって」
≪はい≫
「あなたは美術学課?」
≪美術部です。ちゃんとやってれば美術の教師の免許は取れますから。普通の生活に憧れまして≫
「天才少女は止めて」
≪高校終る頃からどうも天才じゃないだろうとはっきりと分かりましてあきらめましてまじめに働こうと思ってたんですよ≫
「先生におなりになって」
≪そうですね”24の瞳”とか”青い山脈”のようなね先生に憧れて(笑)≫
「生徒はあなたの言うこと聞いたんですか?」
≪私は気楽なんですよ。私は楽しく遊んでもらえたらいいなって思ってて写生に行ったり歌を歌ってこの歌をイメージして絵を描いてごらんとか言ったり。≫
「でもそれから段々と登校拒否教師になったんですってねえ」
≪なりました。希望に燃えてたのにもかかわらず朝起きるのが辛くなって神経性胃炎とか低血圧とか全部やった感じですね≫
「学校に行けないの?」
≪いけないんです。這うようにして(行きました)≫
「何が理由かはっきりしてないんですか?」
≪病院いったんですよ。ストレスですって言われました。何か無理をしてるんだろうって(笑)≫
「みんなに自由に描いてご覧とか言ってるのにそんなにストレスがあるようにはねえ」
≪あのころモラトリアムっていう言葉が流行り始めてて何か全然学生気分だったんだなって≫
※モラトリアム=②自己を発見し社会的成長にいたるまでの精神の準備期間。①支払猶予~小学館国語大辞典より~
「他の先生とかと折り合いつけたりしてね」
≪社会なんですよ。≫
「(先生の集合写真登場/他の先生が年上なのに対し木野さんが子供っぽいので)あなたお若かったんですかね」
≪そうですね私F組って言われてました。クラスはE組まであったんですけど私1人F組って言われて生徒扱いだったんですね。先生らしい仕事が出来ずに1年が終ったっていう感じで≫
「1年ですか。お母様も女で1つであなたを育てて大学にも行かせて先生にもなったのに「止める」と」
≪はい病院の先生にどうしたらいいんですかって聞いたら環境を変えた方が良いと言われて命に関わると思って止めました≫
「それですごいなと思うのが東京に行ってみたら刺激があってなんか違うかもしれないと思ったんですって?」
≪1回ね刺激があるところに自分を放り出したらあきらめがつくだろうと思ったんです。やるだけやったら気が済んでもういちど堅気(まじめな仕事)に戻りたかったんですよ。≫
「それで東京に行ってみようって」
≪はい≫
黒柳「私お仕事が忙しくて結婚とかされてないんだと思ってたらずいぶんたくさん」
木野≪(笑)。何度かしてます。≫
「3回結婚して3回別れて結婚は自分では向いてないって思ってる」
≪それまでは相手が悪いのかなって相手のせいにしてたんですけどもどうも私が悪いって思って。私が(結婚に)向いてないタイプと3回目ぐらいから思って今は落ち着いたものです≫
「その間(結婚中)はお仕事も続けられて?」
≪止めようという気持ちはこれっぽっちも無かったですね。相手も理解してくれてて両立するつもりだったんですよ≫
「両立は難しいですか?」
≪そうですね恋愛の延長線上で結婚して覚めると終っていくような≫
「でも考えると3回も結婚しているのにオールドミスの役が多いっていうのもねえ考えたらおかしいですよね。で東京に行こうと思って上野に着きますよねその時はどんな感じでした?」
≪うーーん恐いとこに来たなって≫
「修学旅行にはいらしてなかったの?」
≪来ましたけどその時は観光地にしか行かなかったり団体行動だったんで大丈夫だったんですけど1人できて観光地ではないところに来たとき恐かったですね。ここでやっていけるのかなって思ったし私は3年って期限を決めて3年間がんばろうと思ってたんでその3年間はすごくやりました≫
「何をしてたんですか?」
≪(劇団の)養成所に入ってそのころアングラがちょうどピークにきてて≫
「演芸会のおばさんのイメージがあったんですね。でも結局は自分で劇団をお作りになったんでしょ」
≪養成所にいて2年目ぐらいから自分たちで自主公演をしてたんですけどその中に男の人が入ると「それは女のセンスだから」とか「女の考えだから」とかいろいろ言われるんですよ。でも私は女だし女の考えでやって何が悪いんだろうと思ってたんですよ。それでやりたいものをやろうとしたときに女の子だけが集まっちゃって≫
「宝塚ではなくて”青い鳥”という女の子だけの劇団を作った。」
≪宝塚と違うのは男役は無いんです。男っぽい女とか。≫
「でもお母様は心配してらしたでしょうね」
≪東京に来て2年半目に旗揚げしたんですよ。そしたら止めれないんですよ。やってみたら楽しいの。母親からは3年過ぎたけどって言われて「じゃあ5年にして」って。やってる内にお客さんも増えてきていけるかなって≫
黒柳「でお母様には5年に延ばすと」
木野≪もうちょっとまってけれって。それが5年10年といたってもう30年になります。≫
「お母様もコマーシャルとかを見て」
≪食べていけるんならしょうがないだろうという感じで≫
「今度安倍公房さんの芝居をなさる」
≪ええ。5月の9日から新宿サザンシアターで≫
「安倍公房さん早く亡くなって残念なんですけど”幽霊はここにいる”」
≪全然古くないんで台本読んで驚きました≫
「木野花さんは元々木の芽がふくというお名前だったんですって?」
≪木野目というのは本名でしゃれで木の芽かれ花を咲かせるということで木野花にしたんです≫
「いいお名前ですね」
≪そうですか≫
「いいお名前じゃないですか」
≪ちょっと恥ずかしいです。木野根っことかいつもからかわれて≫
「でも段々向こうの言葉(方言)が無くなってみんな同じ言葉になっちゃうのは残念だと思ってるんですって」
≪大好きです青森の言葉いつか方言で芝居やれたらなって。だって外国語みたいでしょ。情緒って言うかなんともいえない津軽弁の味わいっていうのがあるんですよね≫
「言葉はできるんですけど本当の東北のうねりができないんですね。あの上原謙さんがいつも2枚目ばっかしやっているから東北弁を覚えようと思って「いつにいさんすいい(1234)」ってすごく上手で息子さんの加山雄三さんもすごく上手なの」
≪でもわたしいつかそういう芝居をやってみたいですね≫
「本当に感じが出ますものねえ。たまには実家にお帰りになることはあるんですか?」
≪はい雪好きですし≫
「あっちの方は雪多いですか?」
≪はい冬になると帰りたくなります≫
「木野花さんでした」